第25章 桜の咲く頃 二幕(六歳)
それに、白粉と佐助が目を見開いた
そんな白粉の額に手を伸ばし、桜の文様とトンと指で触れれば怪我をした足が跡形もなく治っていくのだ
『おかか…様…』
『まったく…もともと頑なところがあったが…母親になってなおさら強固になった…面倒なものだ……その姿、人か元の猫に変えろ。でかすぎて邪魔だ』
そう言い、額を撫でるのだ
白粉は言われた通り、人型に姿を変えると未だ泣く湖を抱えた
「っ、かかさま…?!」
「大丈夫だ少し言い合いをしただけだ…ちゃんと見てみろ。怪我はない」
言われて白粉の手足を見る湖
怪我をした形跡が全くないのを見て、ようやく涙が止まるのだ
「佐助、酒は持ってきたんだろうな」
登竜桜が佐助に向かって言えば「もちろんです」と、佐助は秀吉と政宗が押してきた荷車を指さす
『…しかたあるまい…客人、招いてやる』
女の口角が初めて上がる
『儂は、登竜桜。あの古木だ。そして、この地の土地神だ…こんな大勢の人間を一度に招いた事はないが…娘の案内なら仕方あるまい。客人として迎えよう』
パンパン…っ
登竜桜が手を叩けば、いつぞや同様
音も立てずに現われる敷物
草原に真っ赤な敷物が敷かれたのだ
未だ驚いているのか当たりを確認するのは秀吉と家康、それに幸村
すっかり馴染んだように、敷物に座り酒を飲み始めているのは信長、謙信
政頼は登竜桜が横に座り込んだことで、びくびくしている背中が止まらない
白粉に声をかけているのは、政宗と三成
信玄のあぐらの中に収まり、竹筒に入った飲み物を飲む湖
佐助となにやら話をする光秀
『…久しく飲むが、やはり旨い…じじぃを思い出す』
「おほめ、いただきっ、…光栄です」
『貴様も久しいのぉ。以前見たときは、儂を見て漏らし泣いておった童であったな』
「っ…」
登竜桜が、政頼をからかい笑った
その手に持った杯から酒は途絶えることを知らない
『で。湖のととさまは誰だ?…湖、湖?』
「…湖、おこってるんだもん…」