第24章 桜の咲く頃
「なんだ…って…」
言葉に詰まった秀吉に、光秀が声を掛けた
「説明しただろう。あの猫だ」
「猫って…あの団子屋の猫だろう…なんで人に…」
「…あぁ、お前はあの時の一人か…色々問題が生じて、この姿が便利なまでだ。なんら支障はない」
素っ気なく答えると、白粉は佐助に抱かれている湖を受け取って器用に片手で着物を着せていく
そうすれば、湖は白粉の耳元で小さく誤るのだ
「かかさま…しっぽ、ごめんねっ」
「気をつけろ」
耳元のくすぐったさと、甘ったるい幼子の声に苦笑する白粉
秀吉の目から見て、それは母親そのものだ
「それに…湖も…」
(自分の意思で戻ったのか…)
これについては、安土側の武将が全員そう思っていた
湖は今まで自分の意思で鈴に変わったり、湖に戻ったりは出来なかった
可能な場合もあったがごく希だ
それが、この童の湖は意図もたやすく姿を変えているように見えた
「…これは…」
三成もその光景に言葉を失った
「湖と鈴の事か…鈴が無意識に出る場合も多くあるが、湖が鈴の体を借りたり元に戻ったりは可能だ…いや、おかか様の…登竜桜様の力があってこそだが、いずれ元に戻っても問題ないだろう…」
湖の髪の毛を整えながら、信長達の方を向く白粉に湖に向けられた笑みはない
「…二体が一体で居ることの不調を整えると聞いてはいたが…そうか…」
光秀は興味深そうにそう言う
「あのー。申し訳ありません、差し出がましいことでございますが…」
幾分か前に同じ言葉を同じ人物が口に出していた
「謙信様、供物の準備は整えております。そろそろ行きませぬと…」
政頼がそういうのも仕方ない
到着は昼前だったが…信長達との接触もあり、もう日は大分傾いてきているのだ
「そうだな」
「そうか」
二人の声がかぶると…
「貴様、着いてくる気か…」
「その女の主として確認する必要があるからな」
「お前…いい加減、その主というのをやめろ。湖は、姫でも何でもない。お前との主従関係も無いはずだ」