第24章 桜の咲く頃
「とーとーさーまーっ!おじーちゃん、こわい ってー!」
「湖、湖様っ、お待ちをっ!!ままで言わないでくだされー、ちがっ、ちがいます!今は…と…っ」
まだ少し遠くから聞こえる足音に、ばかでかい声
近くにいる家臣達が笑っている声まで聞こえる
「っぶ…」
信玄が、口元に手を運び目を細める
パタパタ…バタバタバタバタ…
シュ、タン…!
襖が勢いよく開くと、湖がにこにことし信玄の元に飛びついてきた
「こら。湖…くくっ…」
笑いが収まらない信玄に、湖が「えへへー」と、その首に抱きつくのだ
「湖さ、ま…ひー・・はーはー…」
あとから顔を出した政頼が汗だくで、どれだけ走ったのかと思うほどだ
「おじーちゃん こわいから やっていうの!こわく ないのにね?」
「っ…湖様!儂は怖いなどと…」
「いった!湖、きいたもん!」
「わかった、わかった」
謙信が、政頼を見てため息をつくのが解る
佐助は、政頼の背を支え座らせるとその背を軽くさすってやった
「さ、佐助殿…」
それに政頼が、へらりと笑みを浮かべると…
信玄があからさまに眉間に皺を寄せ、佐助に言い聞かせた
「佐助、そのじじいに近づくな。お前が、優しくする必要も無い」
「え…あ。はい」
「な…っ、信玄様??」
「…お前、黙っててやろうと思ったが…此処に来るたびに、その顔をするなら言う必要があるな…」
「っ?!まさか…」
政頼が顔色を変えるのは、誰の目から見ても明らかだ
信玄がにらみをきかせていると、湖は信玄に抱きつくのを満足したようで、今度は謙信の膝に座りに来る
「けんしんさま、おはなし おわった?さくらさまのとこ いく?」
「あぁ。終わった…白粉はどうした、湖」
「かかさま?あ。かかさま、忘れてたっ連れてくるねっ!」
座ってすぐに、立ち上がった湖はまた部屋を飛び出していく
「佐助」
「はい」
謙信に促され、佐助もまた湖のあとを追って出て行った
「…貴様が父親か…」
「なんだ…」
信長が信玄を見た
「悪くない」