第24章 桜の咲く頃
「湖、湖…ついたぞ」
ぽっか、ぽっかと、ゆっくり馬を歩かせる
少し前まで、きゃあきゃあと喜んでいた声が聞こえない
白粉を抱え、信玄にもたれるように寝てしまった湖
「んー…」
「こいつ、完全に寝てるな…で、お前は何だ?」
『ほっといてくれ…』
白粉は耳も尻尾もうなだれていた
「…白粉さん、もしかして酔いましたか?」
『すぐ治る…』
(猫は酔うとこうなるのか…)
白粉は力の抜けた手から出ると、佐助のもとへと飛び移った
自分の前で丸まった白粉を見て「なるほど」と小さく声を出した佐助
「仕方ない…どのみち飯山城で酒を受け取ってから行く予定だったんだ。少し休ませてからにするか」
「そうだな」
信玄の提案に謙信が頷き、飯山城の門をくぐるが…
(…なんだ…)
四人はすぐに異変に気づく
門番も、家臣も誰も出てこないのだ
幸村が三人の前に馬を出し、構えると…
「遅かったな」
と、現われた男
「織田 信長…貴様、なぜ此処に居る…」
「何故も何も、俺は俺の物を取り返しに来たまでだ」
信長の後ろから姿を現わしたのは、光秀と秀吉、それに政宗だ
「この城の主は聞き分けがいい。昨夜から客人としてもたなされている」
そして、高梨 政頼だ
「け、謙信様。申し訳ありませんっ!昨夜、突然現われて訳も解らぬ間に…」
「いい。黙っていろ」
「っは…っ」
信長の視線は幸村の後ろ、信玄に抱えられた童を見てた
そこに謙信が間に入るように視界を遮ると
「俺の領内で勝手をするな」
「言葉を返そう…俺の物を勝手に所持してくれるな」
ぴりぴりとした空気が漂い、怠そうにしていた白粉が佐助の馬から飛び降りた
「白粉さん」
間に入ろうとする白粉を謙信が制する
「勝手をするなと、言ったはずだ」
ぴくりと止まる猫を信長がちらりと見る
「…確かにあの時の白猫だな。光秀から聞いてはいたが…違うのは額の文様か…今回は、それが関係しているようだな」
リリン、リン…
「ととさま」