第24章 桜の咲く頃
「みてー、かわいい?かわいい?」
くるりと回って謙信に着物を見せる湖
いつもは、軽く動きやすいように着丈も少し短い着物を着ている湖
だが今の湖は、緑色の半襟に桜色の着物、そして着物より少し濃い桃色の帯をし、髪飾りもいつもの赤い組紐から、存在感のあるふわりとした赤いリボン飾りをつけていた
「ああ、そうだな」
そんな湖を優しい眼差しで見ていれば、湖の来た方角から、どたどたと大人の走る音が聞こえるのだ
「あっ…」
「…兼続か」
足音に湖は、びくりと背を伸ばす
謙信は、足音の主を当てると息を付いた
「湖、なにかしたのか」
「してないよ…でも、もうつかれた」
足音の主、兼続はようやく湖を見つけたという顔で近づいてくる
「湖様、仕立屋がお待ちです。明後日後出立時に召される置物を選んでいる途中で御座りますよ!」
「もー、これでいいー!湖、つかれたー」
「いえ!妥協してはいけませぬ!しっかりお似合いの物を選びましょう」
「やだー」
(なるほどな…)
「兼続が気合い入れ過ぎてんだ。一日の為に…」
「いいえ!湖様、最後の三歳です!そして、六歳のお着物も…」
あとから付いてきた幸村と兼続が言い合いをする中、謙信は湖に近づき目線を合わせた
「湖、どんな着物がいいんだ?」
「いつものがいいっ。これ、かわいいけど くるしーもん」
「そうか…」
そして、湖を抱き上げると…
「兼続、いつも通りでいい」
とだけ言い歩き出す
「え、殿?!お待ちください…っ、殿!」