第24章 桜の咲く頃
信玄の移動した先は広間だ
すでに謙信、兼続、佐助、白粉が揃っている
信玄と幸村が入ってきたのを、座っていた白粉が見上げるように見て口を開いた
「すべて話した」
白粉がそう言えば、謙信も信玄も眉間に皺を寄せる
そして兼続は「なにゆえですか?!」と声を荒げた
信玄たちは彼らの側に腰を下ろす
「このまま放置し攫われるのは避けたかった。それだけだ」
「…白粉さんの行動、一理あります。下手に隠して探りの度に起こりうる危険を考えれば」
「いい。解った…兼続も少し黙れ」
佐助の声を謙信が遮る
「まあ、胡散臭い狐がうろつくことを考えれば…情報を与え巣に帰らせるのも手段の一つだ」
そして、信玄が謙信にそう言えば…
「支障ない。これが戦の火種になるなら、それはそれまでだ。これ以上の勝手は、いくら湖絡みでも許可しない…」
「解った…従おう」
白粉は、信玄に促され湖を迎えに行くのだった
「あいつにとっては、国や情報戦など一切関係ない。側に居られるわずかな時間を湖と過ごしたい…それだけだ」
「解っている…母とはそういう者なのだろう」
月夜の光が部屋にさしこむ
信玄の部屋では湖が、安らかな寝息をたてていた
白粉はそんな湖の横に膝をつき座ると、その髪を指でとく
「湖…小さな…我が娘…」
(あと少し…あと少しだけ、お前の母親でいさせてくれ…)
抱き上げた子は無意識に白粉の髪を掴み、無邪気に笑った
「…いい夢を…湖」
光秀との密会の後、七日後
あと三日で、湖は登竜桜の元に向かい六歳になるのだ
あれから、特に安土に動きは見られなかった
何かしら動くであろうと思ったが、何一つ無いのだ
(…情報の閉鎖をしているか…様子を見ているのか…いずれにせよ、三日後…飯山城に行く必要がある。接触してくれるなら、その際か…)
謙信は縁側から降り、庭に立つと姫鶴一文字を抜くとその刃をじっと見ていた
だが…
「けんしんさまー」
とたとた…
湖の自分を呼ぶ声が耳に入ると、その刀を静かに納め声の方向を見た
「ここだ」
そう声を掛ければ、足音も近づいてくる
「みーけった!」