第24章 桜の咲く頃
「あー、悪いな。湖の寝息につられた」
腹の上を見れば、自分の着物が開け湖の頬が直接肌に触れている
信玄のまさに腹の上で、うつぶせで寝入ってしまっているのだ
くーくーと、小さな寝息が聞こえた
「しばらくすれば、毎夜同様鈴に変わると思っていたんだが…今日は疲れたか…」
小さく笑った信玄は、手で童の髪の毛をすく
「湖が居るとゆっくり寝れるなら、いっそう毎夜そうしたらどうですか」
と冗談半分に幸村が声を掛ければ、信玄が「そうか?」となにげに返す
「…そうだな…確かに、湖が居るとなぜか呼吸が楽になるな……癒やしか?」
「癒やし効果で具合がいいなら、ずっとそうしててください」
この時、信玄はなにか引っかかるものを感じたが、この時点ではそれがなんなのかは解らずにいた
「佐助達が戻りました。後ほど報告にしましょうか?」
「いや。行くよ」
腹の上の湖をそっとずらし、褥に寝かせてやる
「あーあ、やられた」
(冷たいとは思っていたが…)
自分の胸あたりは湖のよだれで冷たく濡れていた
苦笑いしながら手ふきで拭き取る信玄に幸村があきれ顔をしている
「あんな格好で寝かせるからだ」
「いや、寝付かせたわけじゃない。遊んでいたら寝たんだ。かわいいだろう?」
「…可愛いもなにも、こどもそのものだ」