第24章 桜の咲く頃
謙信と入れ違いで部屋を出た白粉は、すぐにその姿を猫に変えていた
そして、先ほどの宿へと戻ったのだ
ただの白猫だ
だが、その綺麗な毛並みとちぎれた片耳は人間の視線を集める
おまけに、普通の猫の姿になった白粉の額には、薄い桜の文様が額にあるのだ
(…変化しても、解いても…妙に目立つな…)
極力人目に付かないように歩き、匂いをたどっていく
(…だいぶ薄れたか)
先ほど、宿に来た際には湖の匂いとは別に二つの匂いが残っていた
一方は、浪人が乗り捨てただろう馬の側にもあった
もう一方は、この宿に来てから感じた物だ
(やはり覚えがある…あの時の者だろう…)
たんっと、軽い身のこなしで宿の屋根に上がると薄れた匂いに集中した
(…別れているか…)
すると、その香りは二手に分かれているのだ
一方はこのまま進めば、領地外へ
一方は…
『近いな』
カタンッ…
匂いをたどるのに集中していたせいか、白粉はすぐ側の気配に今頃気づく
「なにで辿っているんですか?」
佐助だ
(この男、こどもの体が身が軽いという事をうまく利用し、ずいぶんとうまく体を動かす…)
『お前まで出てきてたか』
「湖さんの反応を見るからに、誰かが部屋に一緒にいたのは確かです。記憶がない湖さんが織田軍を庇う…いえ隠すなどという行動…年齢からしてもない」
『ならなぜ来た?』
「だからです…うまく懐かせて攫うつもりなら、攫われる前に理由を説明し止めなくては…大きくなった湖さんが悲しまないように…」
湖の目を見て、白粉は『なるほどな』と言うのだ
『お前は、どこまでも湖の味方だと言ってたな…付いてこい』
屋根に乗る二つの影が消えた