第24章 桜の咲く頃
「なんだと…」
城に戻れば、佐助はすぐに謙信に報告に行った
「…浪人は捕らえたのか」
「いえ。湖さんをあれ以上不安にさせられず、先ほど軒猿に伝令してあります」
謙信は、持っていた書状を置くと立ち上がった
「…湖さんなら信玄様の部屋に白粉さんと共に居ます」
返事をせずに部屋を出て行った謙信の後ろ姿にため息を零すと
「あぁは言われたけど…やっぱり少し探るか…」
そう言い佐助は姿を消したのだった
「湖、ほんとうに何処も痛かったり、変だったりしないのか?」
「しないよーなんもないよー」
信玄に脇を持たれ抱きかかえられる湖は、にこにこと返事をしている
そんな湖を下ろすと、今度は白粉の方に顔を向けた信玄
「白粉、お前はさっきから何を難しい顔をしているんだ?」
「…いや…匂いがな…」
(あれは、安土の者だ…どの男のものかは定かではないが、以前…あの時に覚えがある)
白粉は一度目を瞑ると…
「信玄、悪いが少しの間…湖を任せる」
白粉がその場を立つと、部屋から出ようと襖に近づく
すると、襖が開き
「どこにいく…」
と、白粉と同じ身の丈の謙信が居るのだ
「少し気になることがある。調べて戻る」
「…織田の者の事なら手は打ってある」
「…そうか…何かあれば、必ず伝える…だから、今は少し勝手をさせてくれ」
そう言うと白粉は謙信の横を通って出て行くのだ
「あ、けんしんさま」
「謙信、何か解ったか?」
謙信は信玄の側に居た湖を抱き上げ、怪我の有無を確認する
「…怖くはなかったか?」
「ううん!かかさまと、にーたんがいるもんっ湖、すこししか なかなかったよー」
「そうか」
頭を撫でてやれば、湖はふふっと小さく笑うのだ
「湖に話を聞いたんだがな、浪人の顔は見ていないらしい」
「…明智光秀」
信玄の話にかみ合わない人名を謙信が出した
「??」
湖は、きょとんとし首をかしげる
(反応ないか…)
「湖、今日外で誰かと話をしていないか?」
「んーん。してないよ…湖、ねちゃったもん」