第24章 桜の咲く頃
「俺はもうしばらく此処で探りを入れる。お前には安土への報告を頼もう…文で説明するには、奇っ怪すぎると思っていたところだ。ちょうどいい…何か解れば、お前に繋ぎを入れよう」
「…我らの領内入りはもう知られております。気をつけてください」
「心配されなくとも」と光秀は、三成の前から姿を消すのだった
湖が安土城から姿を消してから二ヶ月が過る
暦は五月に入っていた
「湖様…」
小さな手に触れた感覚が残っている
(解らない事が多すぎる…)
なぜ、黙って姿を消したのか
なぜ、童の姿になっているのか
なぜ、記憶がないのか
あの「母」と呼ぶ女が誰なのか、「兄」と呼ぶ男が誰なのか
なぜ、越後に居るのか
「こんなに不明瞭な報告…したことありませんね…どうしたものでしょうか…」
湖を見つけた
それ以外の事は、すべて解らないのだ
今は、光秀の連絡を待つより他ない
(そして…今更ではありますが…なんでしょう…この高揚感)
小さな湖を見た瞬間、光秀に問う前から解っていた
あの髪の色、香り…そして開いた瞳の色
見間違えるわけもなく湖だった
それでも、確認せざる得ない
起こりえない現象なのだ
(湖様と会ってから…それまでは予測しようもできなかった事柄が色々ありましたが…今回は一番奇っ怪に感じます…)
小さな童の湖
短時間しか接触していないが
「あれは、本当に童です」
くすりと漏れる笑い
記憶もなければ、話す言葉も行動も表情もすべて童なのだ
(かかさま、か…おそらく、あの屋根に見えた獣…あれは以前出会った白粉という猫に瓜二つ…亡くなった者がと思いましたが…あやかしの類いでしたね…)
おそらく白粉なのだろうと推測したのち、もう一つの影を思いだす
「あの少年…記憶に覚えがありませんね…」
あれは誰なのか
ずいぶんと身軽に動くところをみれば、仕込まれているのだろうとは解った
(ともあれ、お元気でなによりです)
二ヶ月探していた人物が、姿を変えていたとしても元気に過ごしていたことに安堵する三成
再び、湖の去っていた方向を一度みると
三成は安土に向かって移動し始めるのであった