第24章 桜の咲く頃
白粉もまた、部屋に残った香りに覚えがあったのだろう
神妙な顔で黙っていた
「かかさま?」
「…いや。お前が無事で良かった…湖、今日はもう帰るぞ」
「おだんごは?」
「湖さん、それはまた今度。今日は、こわいめにあっただろう?」
佐助にそう言われると、確かに怖い目に遭ったことを思い出す湖
知らない浪人に抱えられた時、ぞっとしたのだ
湖の顔色が変わるのをみた白粉は、その額に口づけすると
「大丈夫だ。もう離さない…このまま、帰るぞ」
と、しっかりとその体を抱いた
「…うん」
湖も、そんな白粉に答えるように首に回す手に力を込める
「俺は、この周辺を…と、言いたいところだけど…湖さんをこれ以上不安にはさせられないからな…ひとまず一緒に戻ります」
「ああ…悪いな、佐助」
「…いえ」
(こわかった…でも…にーたんたちは ちがう…やさしい おかおしてた…)
宿から出てきたのは、少年と長身の白髪の女、そしてその女に抱えられた湖
その様子をうかがっていたのは、光秀と三成だ
「さて…三成、お前…単独で来たのか?」
「ええ。光秀様を見習って動いてみたのですが…光秀様を見つけて早々の出来事で驚いています」
ふっと笑みを零す光秀
「だろうな。俺だって、初めてあの湖を見たときには疑ったからな…お前はどう思った?」
「…湖様、本人に違いはありません…どうして、ああなっているのかは全く想像もできませんが…元気でなによりです」
三成が安土城で見ていた湖は、熱に苦しみ窶れた姿
それが、童だとしても、湖本人が元気に動き笑っていたのだ
「そうだな…たしかに、元気そうだ」
光秀もまた褥に横たわる湖の姿を思い出しながら、遠ざかる三人の影を見ていた
「で…どうだった?単独行動は?」
「…策も状況も確認しないまま動くというのは、やはり性に合いませんでした。光秀様のようには行きません…誠、」
「だろうな」
三成が言い切る前に話を遮った光秀は、林の方へと歩き出す
「これからどうされるのですか?」