第24章 桜の咲く頃
佐助と白粉が、湖の背を見ながら話をする
湖は、小走りに走っては「はやくー」と時折二人に声を掛けるのだ
「童だな」
「ですね」
フッと笑みを零しながら、湖のあとを追う二人
城内を出て、城下外れの茶屋に差し掛かった時だった
茶屋に、深傘をかぶった浪人が一人座っているのだ
表情は見えないが、視線は感じる
佐助も白粉もすぐに気がつき、湖との距離を詰めたが…浪人に一瞬の躊躇も無い
湖の体を攫うように担ぐと、側に繋いだ馬にまたがったのだ
「湖!」「湖さん!!」
「かかさっ…!?」
「おい、お客さんっ!!」
茶屋の主人が、浪人の手を掴むがむなしくもその体を払われる
湖も声を上げようとするが、手ふきで口元を覆われ抵抗する間もなく目を閉じていく湖
此処での変化は人目に付きすぎると、白粉が変化を躊躇している間に男は背を翻し駆けていくのだ
「待てっ…!」
佐助が投げたクナイは、馬の足をかすめることなく地面に突き刺さる
「っ…」
馬に人の足では分が悪い
焦る佐助であったが、人目が少なくなってきたところで横の気配が変わった
『乗れ、佐助』
「っ、助かります」
馬ほどの大きさに変化した白粉の背に佐助が跨がる
『油断した…匂いで追うのはいいが…しっかり捕まっていろ。日が高過ぎで目立つからな…上を行く』
「はいっ」
佐助が返事をすると白粉は近く林の木を駆け上り、木の上を器用に走り跳ぶ
佐助はこの状況にはじめは、しっかりしがみついたが…
徐々に慣れてくると上半身を起し、目で先ほどの浪人を探す
「…一体何が目的で」
『さあな、だが…我が娘を攫うなど愚か者…消してくれるわ』
じゃぁーっと、白粉の怒りの音が漏れる