第24章 桜の咲く頃
「これもうまいぞ。食べてみろ」
(まあ、無理に食べさせることはないが)
くんくんと、謙信がつまんだ梅干しの匂いをかぐ湖
「あ、湖さん。やめと…」
佐助が止める前に、ぱくんとその梅干しを謙信の指ごと食べてしまったのだ
(ほう、食べたか)
柔らかい唇から指が離れると…
「みゃ、うん“――――!???」
鈴でもないのに、湖から猫のような鳴き声が聞こえ始める
(なんだ?)
「謙信、こどもに梅干しそのままは刺激が強いだろうよ」
信玄が、呆れたように謙信にそう言えば
湖は、案の定 口を開いて舌を出した
その舌先には、梅干しが乗っている
「すっぱいーーー!!」
「あーあ」と皆が苦笑いしていれば…湖の顔に影が落ちた
一瞬の出来事だ
舌先に乗ってた梅干しを、謙信が攫っていったのだ
「そうか…こどもには、まだ早いか…」
「すっぱいよー」
そして自分の口の中にある梅干しを噛むと…
「…なんだ?妙に甘いぞ…あぁ、お前が食べていた金平糖だな…」
「こんぺいとーのあじ するの??」
「するな…甘ったるい味だ」
と眉をしかめながら、湖には湖が持っていた金平糖を食べさせた
口内に甘さが広がれば、湖も満足そうにころころと金平糖を口の中で転がし始める
「…なんだ?お前達…」
「なんだって…謙信様…」
「謙信、お前…いくら湖だからって、三歳の女児に何してるんだ…」
佐助に続き、信玄が「おいおい」と表情を曇らせている
幸村に至っては真っ赤で謙信を指さす
「食わないのなら食う。これは、俺の好物だ。味わい尽くすが吉だろう」
「そうだとしてもっ、普通口で受け取りに行かねぇだろう?!」
「そうなのか?」
思いも寄らぬ方向からの声、声の主は白粉だ
「お、白粉殿??」
呆然とみていた兼続が声を出した
「いや、人とはそうか…そうだな、手があるか…」
そう白粉は猫だ
彼女にとっては謙信の行動はなんとも思わない範疇なのだろう
妙な殺気も一切出ていない