第6章 おつかい (裏:三成、光秀)
早くなる動悸を抑えるように、極力冷静にそう言ったが相手は引かず、それどころか荷物のように肩に持ち上げられた
「っちょっ、下して!」
「騒ぐな、耳が痛い…斬られたくなければ黙っていろ」
片手で抱っこされた状態で、聞こえるのは冷たく無感情な声
湖は口をふさぐしかなかった
「っ…」
「それでいい」
男は、そのまま歩き出して行く
(どうしよ…この人も私のこと知ってる人だ…)
空を見上げると、とうに約束の時間を過ぎていることは分かった
うっすら赤く染まった空を見上げ
(秀吉さん…絶対心配してるよね…どうにかして、逃げ出さないと…)
その様子を影から見ている者がいたことは湖は気づいていなかった
「…上杉 謙信…か…」
空が染まるのはあっという間で、真っ赤になった空の下、湖は長屋の一角に連れてこられた
「そこに座れ」
男が湖を下し、刀を脇に置き胡坐をかく
(今なら…)
「戸を開く前に、斬り捨てるぞ…」
逃げ出そうとしていたのを悟られ、びくりとすると
「顔によく出るやつだな…」
そうぽつりと声が聞こえた
「では、そのままでもいい。俺の質問に答えろ」
男は湖を見ると
「お前は、猫に化けられるのか?それとも人に化けられるのか?」
「へ…?」
無表情だが、質問からして興味深々なのは伺える
「答えろ…」
すぐに返答しなかったせいか、眉間にしわが寄っていた
「あのっ…あ、どちらかといえば…猫になってしまうんです」
「では、人が元の姿なのか…安土の町娘か?」
「えっと、安土に住んでます…」
「もともと猫になる体質なのか?」
「っいえ!こうなったのは最近で…理由は分からないのですが、飼い猫と一緒になった…というか…時折入れ替わる・・というか…」
「…では、物の怪の類ではないのだな…つまらん…」
(つまらん?つまんないって言った?この人…)
「と、いうか!あなたは誰なんですか?!私は、急ぎ帰らないといけないんですっ」
ため息を零す男は、めんどくさそうにこちらを見て
「うるさい女だ…まずは、お前が名乗れ」
そう言ってきた
「湖ですっ!湖っ!名乗りましたっあなたは誰ですか!」
「静まれ、うるさい女は好かん…」
「っ…もういいです!私は帰りますっ」