第24章 桜の咲く頃
「っ…、、、にゃあ…」
そう言い引きつった顔の政頼が手を振れば…
子猫の目が見開く
そして絹音を立てたと思えば、もとの童に戻るのだ
「おじいちゃん、おかお おっかい!」
着物の開けた童が元に戻れば、謙信が手早くその体を隠すように着物を羽織らせる
「湖、おいで。帯をしめてあげよう」
謙信が着物の前あわせを軽く縛ったところで、信玄が湖を呼ぶ
「はーい」
とたとたと、畳を走る童から目が離せない政頼に信玄が…
「な。やっかいだろ?」
「え、ええ…そうですな…それも、桜様の関係でございますか?」
「いえ、それは湖さん元々の体質…というか、とある事故でそうなってしまったのです」
シュッと、襖が開くと佐助と幸村が入ってきた
「佐助殿、真田殿」
「にーたん!ゆき!」
兼続が二人に声を掛けるのと、湖の声が重なった
「佐助…殿?」
「はい、お久しぶりです。二年ほどぶりでしょうか?」
「…佐助殿…申し訳ない、貴殿…そのように幼かったであろうか?」
入ってきたのは、幸村を青年とすれば、横に立っている佐助は幼い少年なのだ
確かに顔の印象は変わらない
が、自分が会ったのは青年であったはずでは…と、政頼が目を瞬かせる
「あぁ、これは十二歳くらいの姿なので、以前お会いした際より…十歳ほど若いと思います」
「あぁ…そうですか…して…その変装はどのように??」
どうやら政頼は変装だと思っているようで、未だ佐助から目が離せずにいる
「…高梨様、そんなに見られては穴が開きそうです。謙信様、話をされていないのですか?」
「お前に関しては外見だけだ。不要かと思ったが…」
「そう思うのは、お前だけだよ。謙信」
信玄が苦笑いをし、政頼に説明をする
「さ、佐助殿まで…」
「まぁ色々ありまして」
タイムスリップの事までは話すわけにもいかず、ある程度の事はぼかすように説明したが
それでも、内容は濃い上、実際見なければ納得出来ないような事ばかり
詳しく話さなくとも、政頼は目の前の者を受け入れるだけで目一杯だった
佐助と幸村が座れば、程なくして御膳が運ばれてくる
賑やかな食事の時間だ
政頼は、佐助の若返りにずいぶん関心があるようで佐助に色々尋ねている
尋ねられた佐助は、平然と「どんなに聞かれても、若返りは不可能です」と返すのだ