第24章 桜の咲く頃
「…謙信、説明しろ」
「今のをか?」
「違う。此処に呼んだ理由だ。湖をこんな酔っ払いに合わせてどうするんだ?」
謙信の名前が出て、湖は政頼と向かい合っていた謙信の方を見る
すると、謙信がその湖を手招きするのだ
湖は、この初めて見た年老いた武将を警戒しながらも、ささっと走って謙信の背中に隠れた
「湖、大丈夫だ。ただの酔っ払いのじじいだ」
「謙信様、じじいとはなんですか。儂はまだまだ戦えますぞ」
はははっと豪快な笑い方をする政頼
「以前、彼奴から聞いた件だ。土地神と交流があったという話を聞いていた」
謙信の言葉に、白粉が言っていたことを思い出す
土地神の登竜桜と、飯山城城主が飲み仲だったということを
「それは解るが…湖まで」
「必要なのは、湖ではなく、白粉だ」
急に出た名前に白粉が眉をひそめた
「私だと?」
「高梨に見せた方が早い」
謙信にそう言われ、「なるほどな」と白粉は立ち上がる
そして政頼の横に来ると…
「ほう、こちらの美人様が先ほど謙信様が仰られた「白粉殿」ですな。確かに、あやかしのごとく美しいが…猫ではありませぬ」
ははっと笑う政頼に、白粉は「そうか?」といい目線を合わせた
『では、これではどうだ?』
どろん、とでも音が出そうな変化
羽織っていた着物から毛並みが、頭上にはぴんととんがった耳と片方がちぎられたかのような形の耳が…
みるみる大きくなった体
真っ白な化け猫が、座っていた高梨を見下ろし怪しく目を細めるのだ
「ひ…っ…!!!」
まがまがしい気配をわざと作った白粉は、政頼の方へ牙を向ける
「ひぃいいっ!」
すっかり酔いが覚めたであろう政頼は、真っ青になって白粉から目をそらせずにいたが…
「かかさま、めっ!おじいちゃん、こわいって!」
と、小さなこどもの声がすると同時に化け猫は女の姿に変わった
「怖がらせた覚えは無い」
「うそ!かかさま、しゃーってしたもん!」
「…少しな」
罰悪そうに、元の兼続の隣に座りに行く白粉
そんな彼女を見た兼続は、くくっと笑いを零すのだ