第24章 桜の咲く頃
「早く春にならないかなぁ」
「いきなり何…」
煎じ薬を手渡された湖が、そう言った
「夢をね、見るの。桜が舞ってる夢…すごく綺麗なんだ。もうすぐ咲く?満開になったら見に行きたいな」
「…だったら、さっさと元気になりなよ」
掛けたいのはこんな言葉じゃ無い
「そうだね」と笑った記憶に残る湖の姿はやつれていた
「家康様」
「っ…悪い、どうかした?」
何度か呼びかけていたのか、家臣は心配そうに家康を見ながら書状を渡した
「これを。三成様より預かりました」
「三成から…?」
御所で領地報告を受けていた家康は、きりのいいところで家臣を下げて、その後三成から文を開いた
「あの馬鹿…」
そして、ぐしゃりとその文を握ると急ぎ御殿をあとにする
「めんどくさい事押しつけてくれた…」
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家康様
光秀様の行動調査の結果、湖様らしき人物の影が見られました
つきましては跡を追い確認して参ります
信長様、ならびに秀吉様達には後ほど文にて状況を報告いたします
恐れ入りますが、しばらくの間のことよろしくお願いいたします
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(なにが「よろしく」だ。お前の代わりなんて、ごめんだ)
三成は、自分が織田の参謀だという認識はあるのだろうか
参謀が、おいそれと誰かに務まるわけがないのに
そんな事を頭でさんざん文句を言いながら石段を早足で上がる家康であった
(湖が…見つかっただって…直接伝えろよ。お前の口は、何のためにあるんだっ?!)