第24章 桜の咲く頃
「湖、とびっきりおいしいぞ。にーたんにお願いしておけ」
「うん!にーたん、こーぺーとー 湖 たべたい!」
「…了解…そのかわり、にーたんが帰ってくるまで信玄様か兼続さんか…誰かと一緒に居ることを約束してほしい。かか様は、しばらく寝てるようだから…」
「あい、わかった!」
湖が、誰のまねなのかそう言うと
佐助は「ではでは…ドロン」と姿を消した
「にーたん、かっこいい…」
そんな佐助に湖は、頬を染め掠れるような声を上げた
(…湖の初恋は、佐助になるのかもな…)
「約束だ、湖出かけるか?」
「うん!」
ぱっと自分を見る目は童のきらきらとまぶしいものだった
「某は、謙信様と高梨様の元に行って参ります」
「高梨…政頼が来ているのか?」
「ええ…あ、申し訳ありませぬ。信玄様には…」
「解ってる。会いたくないんだろう?」
政頼と信玄は、一度戦をした中だ
その際には、信玄が勝ち根拠地を追われた政頼は飯山城にまで後退を余儀なくされたのだ
あれから少し時間はたったが、相手には良くない記憶だろう
「いえ、そうではありませぬ。政頼様は今夜、春日山城に滞在するそうで、後ほど宴の席でお会いされたいとの事」
「宴の席だと…あぁ、解った。では、後ほどな…」
信玄が眉をしかめると、その着物を湖が引く
「しんげんさま…おかぜ、なおってない?」
「あぁ、悪い。大丈夫だ、昨日は悪かったな。行くか?」
「うん!」
ぎゅうと、自分の足下にしがみつく湖を片腕で抱き上げた信玄
「ところで、かか様はどうしたんだ?」
「ん?んーと、おでんわ して つかれたって」
「おでんわ??」
(なんだ?佐助にあとで聞く方が早いか…)
ふわりと、漂う花の香り
(夢と一緒だな…)
「いい匂いだなぁ」
持ち上げた湖の襟あわせに顔を埋めるようにすれば…
「くすぐったいよー」
と、きゃっきゃ喜ぶ声を上げる湖
(不思議だな…昨日のあれが嘘みたいに体が軽い…)