第24章 桜の咲く頃
(花の香り…あれは、湖のものだ…)
夢は見ることはあるが、あんなに鮮明に匂いを感じることは不思議だった
(天女の微笑みで目を覚ますのは、実に気分がいいがな…)
こどもの声のする方へと向かえば
「ご、合格で御座ります…」
「やったぁ!湖ごーかくっ!んー?ごうかくってなぁに?」
兼続と湖の声だ
「湖さん、約束の馬に乗れるって事だよ」
「ほんと?!湖もう、おべんきょおわり??おうまさん、のれるの?!」
佐助にそう言われ、声がいっそう高くなる
(ちょうどいい時に来たな)
含み笑いをしながら、その場に顔を出した信玄
それを待ち構えていたかのように見ていたのは佐助だ
「信玄様だと思っていました。湖さん、兼続さんのテストを合格しましたよ」
「てすとというのは、試験みたいなものか?」
「三歳の飲み込みが良いのか、湖様が元々良いのかは定かではありませんが、もう文字に心配はありませぬ」
やったー!とその場で飛び跳ねている湖を佐助が抱き上げる
「湖さん、かか様は今休んでるから。信玄様の言うことをよく聞いてね」
「にーたんは?にーたんは来ないの??」
「にーたんは、ちょっとお仕事に出てくるよ」
「仕事」の言葉に信玄が眉をしかめた
「佐助、どうした?」
「いえ…少し、気がかりな情報がありまして…領地の外にはでません。少し調べてこようと思っています」
「…誰かと…」
「信玄様、俺は確かに外見こどもですが、中身はそのままです。心配には及びません」
「…だが…そうだ。幸村を連れてけ。ちょうど、金平糖が食べたいと思っていたところだ」
信玄は、佐助を信じていない訳ではない
だが、どう見ても少年なのだ
一人で送り出すには気がかりなのだ
佐助は、信玄を見て「はぁ」と気づかれないように息をつき、湖を下ろすと…
「解りました。幸村と行動します」
と意図を察したようであった
「ですが、金平糖は約束できませんよ」
「こーぺーとー?それ、たべもの?おいしいの??」
「あ…」
しまった。またやった…という表情
これは、少年佐助にしか見られない
まだ表情筋が活発なのかと、思ってしまうほど
以前の佐助には見られなかった表情を時折するのだ
(だから心配なんだ)