第24章 桜の咲く頃
(なんか、へん…)
冷たいのだ
湖は眉をひそめて、信玄の太ももにまたがるとその大きな体を抱きしめるように手を回した
「湖?」
背中まで回りきらない湖の手は、着物をしっかりと握って離そうとしない
どくん、どくん…
信玄の心音を聞くように、湖はその胸に頬をすりつける
どくん、どくん…
(くろい…いやなの、ある…)
「参ったな…どうした、湖?眠くなったか?」
ぐりぐりと自分の胸に押しつけられる頭と、着物を握る手
(こどもは勘がいいと言うが…)
「湖、重いぞー」
(気をつける必要があるな…)
信玄は、ごまかそうと湖をおちょくるような口調で話すが、その体調はひどく不調だ
「信玄様、あ…ちびすけ、なにして…」
幸村は、その様子で信玄の体調を見抜いたようだった
(幸か、助かった)
「湖、俺は幸村と少し話があるんだ。あとで遊んでやるから、今は別の場所で遊んでてくれるか?」
「湖、言うこと聞け」
信玄と幸村がそう言えば、物わかりの良いこの童は顔を上げて「わかった」と言うのだ
湖が部屋から離れたのを確認すると、信玄は大きく息を吸い肩を落とす
「信玄様」
「大丈夫だ。少し…な」
「…湖に見られましたか?」
「いや…でも、なんとなく気づいた様子だったな…参ったな」
「にーたん、にーたんっ!」
信玄の部屋から出た湖は、佐助を探して小走りする
「湖、どうした?」
そんな湖に声を掛けたのは、白粉だ
「かかさま、あのね。さくらさまとね、おはなししたいの!」
「おかか様と…?何があった?」
「湖ね、どーしても、おはなししたいのっ」
「…」
白粉が湖を持ち上げてその表情を見れば、きゅうっと眉を寄せて苦しそうな顔をしているのだ
そこに、呼ばれていた佐助が顔を出した
「湖さん、呼んだ?」
「にーたん!あのねっ…」
「…桜、まだ桜の花が咲いてる木はあるか?」
湖が佐助に何かを言う前に、白粉がその声を遮って佐助に問う