第24章 桜の咲く頃
佐助が、桶に入れたのは木の玩具
ボールのように丸く削った物や、動物の形をくりぬいた物など、どれもこどもが好きそうな物だった
その一つをすくい取った信玄は、「ほぅ」と息を付く
「良く出来ている。早朝から何かしているとは思っていたが…これか?」
「それだけではなく、忍具の開発もしてましたけど…きっとこうなるだろうと予測の元、おもちゃ作りもしておきました」
浴槽につかっていた謙信が、そこから湖をのぞき見れば
先ほど見せた悲しい顔は一切見られず、にこにこと遊ぶ姿が目に入るのだ
その頭には先程の鈴飾りはない
謙信の目が無意識に優しげに微笑むのを、信玄は見ていた
「こどもが欲しくなったか?謙信」
「…何の話だ」
だが、話しかければその表情はすぐに戻る
ザブッと音を立てながら、信玄と幸村も湯に入る
「うさたん、おなかペコペコ」
「じゃあ、くまさんの持っている林檎をあげよう」
佐助は、湖に捕まったのかごっこ遊びをさせられているようだ
「兼続が泣いて喜ぶぞ」
「…童の扱いかたなど、知らん…だが、湖の扱い方なら知っているだけだ」
「ふーん…そうか…」
ちらりと、湖と佐助を見れば
そこには小さな童と、細身の少年が居るのだ
「…今のうちから愛情を注いでおけば、成長したらすぐに物に出来そうだな」
「…なにがだ」
「見ろ。童だが間違いなく湖だ。花の香りもちゃんとする…この香りは不思議だな。蜜蜂を惹き付ける花のようだ…舐めてみたくなるな」
この小さな湖から、以前の懐かしい香りが確かにする
花の甘い香り
まだ弱いが、抱き上げれば、自ずと漂うやさしい香りだ
「信玄様、だめです。今のはロリコン発言!危険です!!」
そんな信玄と湖の間に佐助が立ち、信玄の視界を遮る
「なんだ?その、ろりこんっていうのは?」
「ロリータ・コンプレックス、幼女・少女への性的嗜好や恋愛感情。略してロリコンです」
「…佐助、悪いが…俺が抱きたいのはいつだって大人の女だ。確かに今の湖も可愛いが、性的嗜好は絶対に持たない…三歳には」
最後の「三歳には」全員がなにかしら引っかかるものがあったのか、信玄を見れば…