第24章 桜の咲く頃
にゃぁ!
リリン、チリリリン…
「うわっ」
(そう、この小さい湖さんは自分の意思で体を変える)
赤子に戻された湖は、母乳の代わりに登竜桜から桜の蜜をもらって育った
そして白粉が猫の姿に戻れば、それを見て自分も子猫の姿に変わるのだ
ただし…
白粉のようにはいかない
白粉はあやかしだ
着物も変化で仕上がっているが、湖は人間
着物は別の存在だ
猫になれば、着物が残り、人間になれば裸なのだ
(どうにかならないか聞いたけど「面白いではないか」の返答しか無かった)
あの土地神であれば、どうにか対策をくれそうな物だが…
きっとこれに関しては、以前のままで変わらないのだと思った佐助
(自分の意思で、鈴の体を借りれるようになるのは、湖さんにとっても都合がいいはずだ)
何か起こっても、鈴なら逃げ出せる可能性が高いからだ
(だけど…こどもっていつ羞恥の感情が芽生えるんだろう…この記憶…登竜桜様の話からして、大きくなった湖さんに残る)
「…どう反応するんだろうか…」
「ん?佐助、何か言ったか?ってか、お前…本当に火薬くさいぞ」
子猫の鳴き声を聞きながら佐助は思いふけっていた
そんな佐助を縁側、上から見ていた幸村は、湖の着物を片手に佐助を見て言った
チリリン…
「うん。だから、風呂に行こうかと」
「あー、俺も付き合う」
にゃぁ、にゃぁと、子猫の声は止みそうも無い
白粉のあとを追いたかったのだろう
まだ三歳だ
母が一番恋しく、側に居て欲しい存在だ
だが、白粉のように跳べるわけもなく、子猫は塀の下でがりがりと石に爪を立てて鳴くのだ
謙信は小さく息を吐き、肩を落とすと
裸足のままで庭に降り、塀をかく小さな子猫を抱き上げた
抱えた猫は耳を伏せ、悲しそうに鳴いている
以前の鈴にくらべ、首もとに付いている組紐は大きく見え不釣り合いにも感じる
(童だな…)
「…湖、風呂で遊ぶか?」