第24章 桜の咲く頃
朝、目覚めた湖は、白粉からしばらく此処に住む事になると伝えられた
寝ぼけままの三歳児に伝わったのかどうか定かではないが、湖は「うん」と返答をしたのだ
その際、佐助に謙信達を紹介されることになる
湖の第一印象はこうだ
謙信は…(かっこいいにーたんだけど…こわそう)
信玄は…(やさしいにーたん!)
そして、第一声「ちびだなぁ…本当に湖なのかぁ?」と言った幸村は…(このひと、やっ!いじわるなひとだ!)
「姫様、姫様」と呼びかけてくる兼続は…(あそんでくれそう!)
「湖、かかさまと、にーたんのつぎに、しんげんさま、すきよ」
ぎゅうと抱きしめた信玄の額に、触れるだけの口づけをすれば
「おっ…」
と、信玄もこれには驚いた
だが、次の瞬間にはいつもの笑みを浮かべ湖の頭を撫でる
「それは、光栄だ」
はぁはぁ、と息をついていた兼続の呼吸が整ったのか
彼は湖に向かって話しかける
「湖様、これから某と巻物を読みましょう」
「あれやだ、つまんないもの。にょろにょろへびみたいのばっかり」
湖の言ったへびとは、ひらがなの草書のことだ
「兼続、お前何をはじめたんだ?」
「湖様、以前文字は苦手だとお伺いしていたので今のうちに覚えていただこうと」
「…良いかもしれんな…今の湖の記憶は、元の記憶に上書きされて蓄積されるからな…成長した時の為にいいかもしれん」
信玄の質問にまじまじと答えた兼続
そして、その言葉に目を見開き賛同したのは白粉だ
「えーーー。かかさま、やっよ!あれ、おもしくないもん」
「いえいえ。三歳児の頭は柔軟です。一ヶ月もあれば、すぐに覚えられまする」
「やーだ。やっ」
絶対下りるものかと、信玄の頭を抱える湖だが…
「湖、へびが読めるようになったら褒美をやろう」
と、間近からかかる声にぴくりと反応を見せる童
「ごほうび?」
「そうだ。湖は何がほしい?」
「…おうまさん…」
「ん…?」
頭にまわされた手が離れると、小さな湖は恥ずかしそうにこう言うのだ
「湖、おうまさん、のりたいの」