第24章 桜の咲く頃
「さて…そろそろ準備はいいか」
チャキッ…
すらりと刀が引き抜かれれば、それはいつものごとく
春日山城では珍しくない光景である
ただし、時間を除いては…
見回り番は慌てるも、巻き添えを恐れ遠巻きに見守るのみだった
「あんなに楽しそうな謙信は久しぶりだな…お前が此処に来てくれたからだな、おかえり…鈴、湖」
指先で鈴を撫でれば、鈴はうれしそうにグルグルと喉を鳴らす
「…湖は不思議な娘だ…安土に、おかか様、そして越後にも好かれるか…」
信玄の独り言に、白粉が口を挟む
「湖に関われば、誰もがその人柄を知りもっと知りたいと思う…いい女だよ」
「そうか…そうだな」
(私が、湖に惹かれたように…おそらくほとんどの者が、この娘に惹かれる…本当に不思議な娘だ)
騒がしい真夜中の日のことであった