第24章 桜の咲く頃
城内の一室に揃ったのは、先ほどの面々
月がぽかりと浮かんだ夜
雲一つ無い空は神が現われた夜にふさわしい雰囲気を漂わせた
「…にしても…よく考えつくな。あんな作り話…」
「いや、前に読んだファンタジー小説にこんな設定があったのを思い出しただけだ」
「ふ?ふぁんたじ??」
幸村が、なんだそれは?と眉間に皺を寄せる
「城内の者、意外にすんなり受け入れたのは…白粉様のおかげしょう…あのお姿…神々しく…」
兼続は、謙信を毘沙門天の生まれ変わりのごとく言葉を残した白粉を気に入った様子だ
「私は二度としないぞ…あんな小芝居…湖の為にしたのだからな…」
そんな兼続に、白粉は恥ずかしそうに頬を染めた
「いやいや、何にせよ。これで堂々と過ごせるんだ。よかったじゃないか」
「…そうですね。あと、一点だけ問題がありますが…」
信玄の言葉に、少し目を細め言葉を濁した佐助
「なんだ。隠し事をせずにすべて話せ」
と謙信が盃片手ににらむ
「いえ、隠しているわけではなく…実際に見てもらった方が早いかと思って…」
佐助が言い切る前に、「みゃおん」と小さく猫の鳴き声がした
「ん?」
信玄が、その声の方向をみれば…
それまで、湖が寝ていた場所には着物だけがあり、その着物の襟口から煤色の子猫が顔をだしているのだ
「おや、この子猫…いつぞやの…?!湖、湖様は?!」
兼続は、煤色の子猫を見て以前謙信が抱きかかえていたことを思い出していた
が、同時に童の着物が其所に
主の居ない状態で落ちているのに慌てふためく
「鈴」
白い指先がくいくいと、曲り鈴を呼ぶ
鈴はそれを見つけると、そこへ…白粉の元に駆け出すのだ
みゃぁ!
「見つけた」とばかり、走り出す鈴だが、まだ子猫だ
途中で畳の縁につんのめりころんと転がってしまう
それを佐助がすくうように両手で抱え、白粉の膝の上に置いた
「夜になると、湖さんと鈴がたびたび入れ替わるんです。もちろん、以前同様で湖さんが走ったり、鈴になりたいと思ったときも同様なんですが…猫は夜行性動物の為か、湖さんが寝入ると鈴が出てくることが多くて」