第24章 桜の咲く頃
「急ぎ政頼に文を出せ」
「かしこまりました…ですが、湖様達を此処に置くとなると…城内の者にはどのように周知いたしましょうか…」
兼続がそう切り出せば、信玄もまた
「そうだな…だが、佐助や湖の事はなんと説明するんだ」
「構わん…そのまま伝えればいい」
謙信のその答えには、兼続も驚き止めに入ろうとする
「その件ですが、謙信様…もしよろしければ…」
だが、それより先に佐助が声を上げた
眠り続ける湖だけは、何が起こっているのか知らずにいるのだ
そして、その日…
空が真っ赤に染まる頃、春日山城に化け猫が現われた
馬の2倍ほどある白猫は、春日山城の庭木に音も無く現われ
その場に二人の人間を置いた
『安土より神隠しにあった姫を連れ戻した。姫には土地神の加護がついている…大切に育てば、この地により多くの実りを与えるだろう…この姫を受け入れる主はいるか』
急に現われた見たことの無い物の怪に、城内は騒然とし逃げ出す者、叫ぶ者、刀を構える者…皆、それぞれの反応を見せる
ただ一人を覗いて
「…引き受ける」
庭先に出てきた謙信は、化け猫にも動じず返答をする
『貴様…毘沙門天か…そうか、それは良い縁だ…では、貴様に託そう。だが、姫が無事育つよう人質をもらう。この城の忍…この男をお守りとさせてもらう…』
そう言うと、化け猫は消え
庭には湖と佐助、そして消えた猫の代わりに長身の女が現われたのだ
家臣達は、驚き慌てたが
少年が「謙信様、助かりました」と話始めれば…
「佐助殿だ…」「佐助様だ!」とだと声が出始める
そして、「夢ではないのだ」と「神が越後に参られた」「謙信様を毘沙門天とおっしゃられたぞ」などそれはもう止める事が出来ないほど、一気に話が始まるのだ
そして、眠る童を見て湖の面影を見つけ…
「湖様だ」「湖様が帰られたぞ」と喜び始めた
だが、側に立つ女が湖を抱き上げ
「しばしの間、我が見守らせてもらう」
そう言えば、家臣達はあの化け猫とこの女が同一人物だと気づき
ぴたりと口を押さえ距離を置くのだ
「この者達を部屋に案内しろ」