第24章 桜の咲く頃
謙信の視線が、幸村と佐助に向けられる
すると、それを信玄が止めるように口を挟む
「謙信、幸村は俺の命に従っただけだ。悪かった」
「信玄貴様…」
くいくいっと、小さな手が佐助の着物を引く
引かれた袖の方を見れば、湖が不安そうな面持ちで佐助を見ているのだ
「にーたん?」
「大丈夫だよ、湖さん。あの人は、少し寂しかったんだ」
「さみしいの?」と言いながら、信玄と謙信の方を向くと「そっか…じゃあ…」と、二人の方へテコテコと歩き始めるのだ
「湖さん?」
赤い着物の端と青い袴の端を持つと、くんっと引き二人の視線を自分に向けた湖
「「湖?」」
「湖ね、さみしいときどーするか、しってるよー。ぎゅうってするのっ」
自分を見たまま反応の薄い二人に、むっとした湖は、その足にぎゅうっとしがみつく
信玄の足下と、謙信の足下に…
「ぎゅうしたら、ぬくいでしょ?ぬくいの、湖すき!さみしくない!」
「湖さん、可愛すぎ」
後ろからそんな湖を攫うように抱きしめたのは、佐助だ
「にーたん、くるしっよー」
キャッキャ言いながら笑う童に、謙信と信玄もすっかり気を紛らわされる
「まぁいい…その件は、不問にしてやる」
「そうだ、それよりこの状況を説明してくれ、佐助。その童、本当に湖なのか?」
佐助は、「ちょっと、にーたん。お話してくるよ」と言い女に湖を預けると湖はぷーっと頬を膨らます
「にーたんって、お前…」
「俺は、ただいま湖さんの兄役なので…にんにん。あ、もしかして幸村…うらやましいとか?」
「ば、馬鹿言うな!」
「説明しますが、兼続さんを待ってからで良いですか?何度も説明するのは、長くなるので…」
結局、兼続が来るのを待ち、佐助はようやく説明を始めるのであった
「まず、俺は間違いなく猿飛佐助です。それで、この子は湖さん、こちらは白粉さん」
「…佐助殿は、その話し方と外見で間違いないと思っておりますが…こちらの童が湖様とは一体どうして…」
兼続は、湖を見てどうしたものかと額に手を置いていた