第24章 桜の咲く頃
「ま、待ってください!湖さんを赤子に戻すって…それ以外に方法はないんですか?!」
「ごめんなさい…私も唐突で…っ」
焦った様子の佐助と湖
『儂が手を掛けてやるんだ。やり方に文句をつけるなよ、人間』
湖の隣に居た佐助の額をとんと指さした
『ついでだ。貴様の刻の乱れも完全に正してやろう』
湖は目を見開いた
なぜなら、横にいた佐助の体格が明らかに変わって、自分が見下ろすようになっているからだ
「さ、佐助…くん?」
「っ、これは…」
当の佐助は自分の手や体の大きさを確認しながら…
「10歳くらい…か…」
驚きも見せず、自分を分析しているのだ
「10歳って…っ」
確かに湖の隣にいるのは、佐助だ
でも、こどもなのだ
佐助が今、言ったように10歳くらいの男の子だ
『お前の乱れはわずかだ。放っておいてもあと数年で安定するが、この娘と一緒に乱れを正してやろう。刻の乱れを整えるだけだ、赤子まで戻す必要な無い。お前は、湖の兄役として役割を果たせばいい』
「湖さんの兄…それは、おいしい役どころかも知れない」
「さ、佐助くん…っ」
以外に乗り始めた佐助に焦る湖
『良いか?一ヶ月たったら此処に来い。それぞれ成長させてやる。それを六ヶ月繰り返した後、湖と鈴との調和も、お前達から感じる刻の乱れも治る。そして、白粉は役目を終えてその身を休める』
「おかか様…」
『短い時間だが、母親として生きて見せろ』
湖に当てられたままの指先が、淡く光り始める
『湖、鈴。貴様達は、はじめからやり直すんだ。これまでの記憶は、私が預かりおく。存分に楽しめ』
「ま…まってくだ…っ」
とぉん…
桜の花びらが舞い落ちる中、子猫のような鳴き声がした
それは、赤子のか弱い鳴き声か、子猫の母を呼ぶ声か
ひらひらひらりと、優しく桜の花びらに包まれて
わずかに見える視界に入るのは、優しい女の微笑みだった