第24章 桜の咲く頃
自分より弱い生き物に人間が行う自己満足の行為
命の連鎖、その為の行為に恥を感じてはいない
湖だって、肉や魚を食べる
それは生きるための行為
だが、そうではない
この兎は、食べる為…捕獲の為に傷つけられたのかも知れない
おそらくそうだろう
だが、湖には素直にそう思えない過去がある
いたずらに動物を傷つけて、満足をする人間
そんな人間に、現代でも
この時代でも会っている
しかも、自分が一度は助けた命が
そんな勝手な考えで二度と戻らない命になった
その経験が、その考えが、嫌でも溢れてくるのだ
『湖、その兎はお前が助けた犬や私とは違う…いたずらに傷つけられたわけではない…』
横で様子をうかがっていた白粉が声を掛ける
「…っ」
『…悪いな、お前の中に居たのでな…知っている』
「…そう、です…か…。いいえ、いいです…」
「湖さん?」
『…何か経緯がありそうだな。少し覗かせろ』
「え…」
トンと、目を覆い隠すように伸びてきたのは登竜桜の手だ
ふわりと、甘い匂いと暖かさが伝わってくれば…
『なるほどな…それがお前の涙の理由か』
それは一瞬で、すぐに手は離れていく
『人とは…川のような物だ。水はどんな川にでもあるが、川は細流、急流、大河…水の澄んだもの、濁ったもの、冷たい、暖かい…様々な川がある。まさに人そのものだ…』
「…」
反応の無い湖の顎に手を掛ければ、上を向かせ自分と目を合わせようとする登竜桜
『お前は…暖かく、澄んだ川だ。だが、誰しも時折降る雨に水を濁し、川が氾濫する…飲込まれるな。其所にとどまるな…そのままそうしていれば、いずれ水が濁り腐る…』
湖は、登竜桜が言った言葉を頭で反復するように
しっかり受け止めると、しっかりとその目を見返し答えた
「澄んだ川でも毒水かも知れない…知らずに川の水を飲んだ誰かを苦しめているかも知れない」
『…だが、自ら毒になるほど愚かではあるまい』
にゃーぉ…
登竜桜と共に、鈴の鳴き声が聞こえた