第24章 桜の咲く頃
白粉とは異なる声の主を探し見れば、そこに立つ登竜桜と目が合う湖
女の背後に咲く桜の木も同時に視界に捕らえ、湖は姿勢を正すと指先をそろえ静かに頭を下げた
「白粉から聞いています。ご迷惑おかけしております」
『……』
登竜桜が何も答えずにいれば、今まで遠巻きで様子を見ていた動物達が心配そうに寄ってきた
彼女の足下に行く者も居れば…
湖の下げた頭の近くにも
ふわふわとくすぐったい気配を感じ、湖は頭を上げた
そうすれば目の前は白いふわふわの毛があった
「あ…」
つんつんと少し湿った鼻先で湖の手をつつくのは兎
「…ふふ、人が好きなの?それとも…心配してくれてるの?ありがとう」
ふわりと笑みを浮かべて、その頭を撫でてやれば兎は登竜桜の元へと跳んでいった
『…湖と言ったか』
「はい」
姿勢を正した湖の事を上からのぞき見るようにすると、少し間を置き話し出す登竜桜
『此処に身を置く動物たちは皆、人の手で傷ついた者ばかり』
「…あ…」
しっかり自分を見返していた目が、とたんに表情を変え
罪悪感と悲壮の色を浮かべ始める
(この娘…)
『…人が好きだと思うか?』
「…っ、いいえ…いいえ…」
琥珀色の目がとたんに潤み出す
こぼれそうな涙を我慢するように、眉間に皺を寄せ、まるで自分がその仕打ちをしたかのように恥じているのだ
そんな様子を見てなのか、さきほどの兎がまた湖の元に飛び跳ねていく
そのままぴょんと膝にのれば、首をかしげて湖をのぞき込む
「っ、ごめんね…」
ぽたん、ぽたんと大粒の涙を流して「ごめん」と繰り返すのだ
「湖さん?」
佐助はその様子に驚き、湖の横に寄ってくる
すると兎は、その場から逃げ出すように跳んで行ってしまった
『何もお前を責めたつもりはないが…』
「…解っています…」