第24章 桜の咲く頃
白粉が湖の前に姿を現した際、事を説明し、自分ができる最良の手段を話して聞かせた
入れ物を元に戻す。別々の存在になれ…と
だが、二人ともこのままで居たいと拒んだのだ
理由までは聞けなかった
そんな状態ではない
が、無理に二人を分けることはできず
ひとまずは、此処に連れてきて回復させてから…と考えたのだ
『無理強いはできないが、死なすには惜しい』
『なるほどな…この娘が気に入ったか』
女が、おちょくるような口調でそう言えば、白粉は至って真剣に答えた
『…あなたが私を娘にしてくれたように。私もこの娘が、娘のように愛おしいのです』
『…それが、此処に人を連れこんだ理由か』
『罰は受けます…ですが、娘として最後の願いです…登竜桜様』
(登竜桜…)
佐助は、女ではなく古木を見上げた
その古木の幹は太く、枝もしっかりと支え合い、それは立派な桜の木であった
『本来、我ら神は人に直接接する事はない…人間とは異なる力を持つ我らが人に関われば、必ず争いが置き人が身を滅ぼすからだ…それを此処に連れてきたのは、いかなる理由があろうと処罰する必要がある』
「っ、待ってください。白粉さんは…」
制するように手を上げた女…登竜桜は、にっと口角をあげた
『だが、今回は別だ…お前も、この猫も娘も…本来はこの世の者ではないな』
「っ…」
『刻の乱れを感じる…お前はずいぶん、この世に定着し始めているが…この娘はまだ乱れがある』
「…確かに、俺たちはこの世の生まれではありません…今の時代より…500年先の世から、この戦乱の世に来た身です」
それを聞くと、登竜桜は目を見開き愉快だと笑い出す
『なるほどなっ、それは希な現象だ…だが、あり得る現象だ。面白い』
(…なんだろう、この人…俺のイメージ的には、女版織田信長みたいな…)
『…我を愚弄するか…今の世の若輩者と儂とで、どちらが先に存在していたと思うのだ。私が似ているのでなく、其奴が儂に似ているんだろう』
「え、あ。確かにそうですね…あ、え…?」
『おかか様に隠し事は不可能だ』
「そうみたいですね、解りました」
「すみません」と頭を下げる佐助に、登竜桜は気にした様子は見せない