第24章 桜の咲く頃
『…途中でお前に会えたのは幸運だった。頼るつもりはなかったんだが、急ぎ此処に着く必要があったのでな』
「…湖さんが、体調を崩した理由はわかりました。でも、此処にはいったい何をしに来たんですか?」
白粉の頭を撫でていた女の手が離れる
『此処は…私の生まれた場所だ…正確には、一度死んで…』
『儂が新たに命を与えた場所だ。白粉は、子猫の時に此処に迷い込んで死の寸前だった。儂が、その傷を癒やし新たに命を与えてやった。だから、普通の猫とは異なり…お前達の言う神と同様の身になった…儂は、この古木の化身だ』
白粉が言葉を濁すと、女が続けて答えた
『おかか様は、樹齢250年のこの桜の化身。土地神だ。私は、おかか様より力のある神を知らない。おかか様なら、湖のこの不調も直せると考えて連れ出したんだ…助けたかったからな…』
「古木の化身…土地神…すみません、頭を整理するので少しだけ時間をください」
ぶつぶつと佐助が、独り言を言い始めると白粉は女の方を向いて一鳴きする
『ほんと、馬鹿な子だ…お前の子も、ここに連れてきたら良かったのに』
『…そうですね…でも、あの子には普通の子猫として生きてほしかったので…』
『…儂を恨むかい?』
『いいえ。感謝しています。この身を生かしてくれたことを』
『…そうか』
「すみません、お二方。お待たせしました。大方、整理が付きましたので…続けて、湖さんが助かるのかどうかお話をお願いします」
『…おかか様…』
佐助が先を求めるようにすれば、白粉は女を見る
『結論を出すなら、可能だ。娘と猫を別々にするのが一番だがな…だが、それだけなら白粉にもできたはずだ』
『…此処に連れてきたのは、湖と鈴の双方が今の状態を望んだ為』
白粉の言葉に佐助が反応を示した
「湖さんと鈴が?」
『そうだ。私は、安土を出る前に二人に伝えた。別々にすると…だが、二人ともそれを拒否した。可能ならこのままがいいと』