第24章 桜の咲く頃
女が見せろというのは、鈴の事だ
佐助がためらいを見せれば、白粉が頷き促す
少し間をおき鈴を手渡すと、先ほど白粉にしたのと同様に鈴の額を叩いた
たださっきと異なるのは、桜の文様が浮かばないことだけ
鈴は、荒かった息が落ち着き穏やかに寝ているように見えた
『白粉…』
女に名を呼ばれ、白粉は佐助を見あげた
『すまなかった、訳も話せず連れてきて。ちゃんと説明しよう。だが、その前に礼を言わせてもらう…お前がいなければ、私もこの娘も此処にたどり着くことなく死んでいたかも知れぬ。助かった、佐助』
「いえ…それより、説明をお願いします」
『そうだな』と白粉は考えるように話し始めた
『お前は、湖に聞いて私を知っている…と、言ったな。では、私が死んだことも知っているだろう?』
「はい…そう聞いています」
『確かに体はこと切れ死んだ。だが、精神は別物だ。入れ物がなければいずれは消滅する…それで良かったのだが、私はこの娘が…湖が気がかりだった。だから、密かに湖の中に入り伺っていた』
白粉はこう話し出す
湖の中に、別精神で鈴が存在していたことに気づいた
一つの入れ物を二つの魂で共有している状態が気がかりだったと、そしてそのことによっていずれは入れ物が悲鳴をあげるだろうと考えていたと
『おおよそ予感はあたり、湖は体調を崩し始めた。
すぐに、此処に連れてきてやりたかったが、私もあの件で痛手を受けててな。湖に伝えられた頃には、娘の器がずいぶん弱り切ったあとだった。
湖には体の異変について理由を説明した。だが歩けるような状態でもなかった上、私は他の人間を信用できない。
だから、一時的に鈴を子猫に変えて持ち出した…ここまでは、保つだろうと思ってたんだが…』
『馬鹿な子だ。精神を具現化するだけでも力を要するのに、他者まで変化させているんだ。そんな力お前にはまだ無いだろうに』
白粉の頭を撫でながら、女が笑った