第24章 桜の咲く頃
同日、別の場所では
佐助は、白粉が伝えた場所の近くまでたどり着いていた
(飯山城…ここから見えてるな…)
飯山城近くの森、うっそうと茂ったこの森の奥が目的地だと白粉は言った
森に入った際には日がまだ高く明るかったはずだが、奥に進めば高い木々に遮られ陽が差し込まない
時間の経過も解らない
起伏が多い森、こんなに深い場所までは人も訪れないだろうと佐助は思い息を付いた
その時、カーカーとうるさいまでのカラスの声が響き渡る
ざざっと周辺を駆け巡るように風が通る
「っ…」
ザワリ…ッ
森の気配が変わった
周囲一帯から観察されているように視線を感じるのだ
(なん、だ…)
佐助は、猫二匹を抱えたままで小刀に手を掛けようとした
だが、それを制する声がする
『待て…大丈夫だ』
白粉だ
「白粉さん…」
警戒と解かないままで佐助がその名を呼んだ
『白粉…今、白粉と呼んだのか?』
フッと視界の前に現れたのは、鬼の面
佐助の上半身ほどある大きな鬼の顔が急に現われたのだ
「っ…!!」
思わず半身を反らすが、その場を動くことができない
鬼の目がぎょろりと動くと、佐助の腕の中を覗くのだ
無意識に力が入り、猫たちを庇おうと体が動けば…
『大丈夫だ、佐助…おかか様、白粉です。今、戻りました』
『…ずいぶん弱り切って…いや、死んでいるのか?未練の塊だな、白粉』
木の面のように厚そうに見える赤黒い肌
それに似合わない桃色の髪が風に煽られ、佐助を取り囲むようになびく
『…で、なにゆえ人間を連れ戻った?』
『最後のお願いに参りました』
血のように色づきとがった爪が白粉の頭を撫でた
佐助の額から垂れる汗がそこにぽとりと落ちた
『…人間、怖いか?』
「……驚いています…鬼に会うのは初めてなので…」
『っ、くく。何も聞かされずに連れてこられたか』
ぎょろ目がぐりぐり回りながら、笑っているような鬼
『おかか様、どうかお姿を。この者が警戒を解けません』
『…なにやら面白そうな者も連れているしな…我が子の土産話も聞きたい…』