第24章 桜の咲く頃
「なんだと?」
「姿は確認してません、俺は…佐助は見たかも知れない…ただ、あの鈴の音は間違いなく猫娘のものだった。あの峠からだと、猫を捕まえてこっちに戻ってくると思ったんですけど…」
「…佐助が追っているんだな?」
「おそらく」
信玄は、湯飲みを下ろすと「まだ謙信には伝えるな」と言いその場を立った
残された幸村は、信玄の置いた湯飲みを持ち上げ茶を飲んだ
「真田 幸村…、なぜ此処にいる?」
気配を感じさせない声の主に、幸村はびくりと背を伸ばした
そして、咳き込みながらその人を呼ぶ
「ご、っげほっ…、謙信…様っ」
「なんだ?その反応は。安土に向かうと昨日出たばかりだろう…佐助はどうした…」
(なんでこんな間がよく現れるんだよ、この人はっ)
幸村の表情を見ると、謙信は腰元の刀に手を掛けた
「何か隠しごとがあるのか…」
「ないっ、ないです!何、刀に手をかけてるんですか?!」
「なに。暇をもてあましていたところだ…帰ってきたなら、斬り合いの相手をしろ」
スッと鞘から白刃が引き抜かれる
「じょ、冗談っ、あんた、湖が消えてから暇どころか、常に殺気立ってるだろうっ!」
「…解っているなら話が早い。少し付き合え」
(判断誤った…鈴の事を伝えて気を紛らわしたいが…御館様に止められたからな…くそ…)
「…解りましたが、時間を…」
「心配するな、今日一日空けてやる」
「ばっ、一日斬り合いするつもりかっ?!やっぱり、断る!!」
結局は、脱兎のごとく逃げ始めた幸村を刀片手に謙信が追い回すのであった