第24章 桜の咲く頃
「俺は、猿飛佐助。湖さんとは、いわゆる同胞です。同じ世から、この場所に来た仲間同士。君主は居ますが、誰よりも湖さんの味方です」
『…同じ…では、お前も猫に変わるのか?』
「あ、いえ。状況が異なってまして、猫に変わるのは湖さんだけです」
『そうか。なら、ば・・』
白粉は話を続けようとしたが、急にその体から力が抜けたように地面に倒れ込む
「っ、白粉さんっ」
佐助は二匹の元に駆け寄った
(間違いない、鈴だ)
一匹は寝たまま、一匹は歯を食いしばるかのようにその身を起こそうとする
『これでは、もう無理か…』
白粉の視線は、鈴に向けられていた
佐助が、鈴の背中を優しく撫でるのを見て白粉はこう言った
『頼みがある』
一方、佐助達を追っていた幸村だが…
彼はその姿を見つけることができずに居た
もう日暮れ、このまま峠を越えるのは時間的には避けたいところである
(まぁ、問題ないけどな…)
だが、佐助を放っては置けない
ここからだと、安土に向かうより越後に引き返した方が距離的に近い
「しゃーない…一旦引き返すか」
ぽりぽりと頭をかくと、馬を連れ越後の方へと引き返す幸村
だが、佐助と幸村が合流することはなかった
なぜなら佐助は、春日山城とは異なる道を進んでいたから
白粉に頼まれごとをされた佐助は二匹の猫を抱いたまま走っていた
目的地は飯山城(いいやまじょう)近くの古木だという
(あそこは政頼様の城、春日山城から馬で四~五時間くらいか…)
腕の中には弱っている猫たちが居る
(なんで鈴が子猫の姿なのか…聞きたいけど、今は無理か…)
鈴は弱って熟睡しているのか起きず、白粉は…意識はあるものの息も苦しそうにしているのだ
『連れていってくれればいい。あの桜の麓まで』
『そこに着いたら、すべて話す』とだけ言葉を残して
(とにかく急ぐ必要があるな…あと、謙信様にどうにかして連絡を取らないと…連絡が途絶えるとどう取られるか…先が思いやられる…)