第24章 桜の咲く頃
「待ってくれ…っ」
白猫は、子猫を加えながら器用に木々をすり抜けて走って行く
忍の佐助にとっては、猫のあとを追うことはなんら問題ないが
(馬連れでは無理だろうな)
あとから追ってくる幸村の事を考えると、しばらく合流できないだろうと息をつく
(にしても、あの白猫…前に湖さんから聞いた白粉って猫に似ている)
佐助は、湖から白粉、煙管、そして教という僧侶の事など一通りの話は、湖の部屋に忍び込んだ際に聞いていた
(だけど、あの時湖さんは、白粉は死んだと…)
だが、目の前を走って行く猫は間違いなく白粉の風貌だ
ちぎれた片耳、見事なまでの白い毛並み
「…白粉」
そう呼べば、猫は速度を緩め佐助の方に振り返った
佐助もまたその猫に合わせて速度を緩める
そして、猫が森の一角で立ち止まり佐助の方を振り向いたとき、ようやく煤色の猫の全身が見えた
(子猫…だけど…)
飾り紐は間違いなく湖の物だ
「白粉さん…湖さんから話を聞いています…」
湖が猫の姿で居る時同様に、白猫に話しかける佐助
すると白猫はくわえていた子猫を、そっと地に下ろし
息を荒げながら答えたのだ
『湖の知り合いか?』
その声は、女性とも男性とも判断できない
直接頭に語られるような声で、佐助は初めてのそれに少し驚きの表情を見せる
『…安土の者ではないな?』
「…、安土の者だと都合が悪いのですか?」
『悪い。私たちがこれから向かう先は越後だ…ここまで来て連れ戻されるのは都合が悪い。貴様が安土の者なら、口を噤むか。ここで私に食い殺されるかだ』
息を整えるように、白粉は目をつぶると再び佐助に向かって殺気を放つ
猫と対峙しているとは思えないそれではあるが、湖から話を聞いていた佐助は「そうか」と納得した
「あなたは、神に昇格した身だと聞いています。俺を食い殺すのは脅しではないでしょう…俺は、安土の者ではありません。上司は越後、あなたの向かう地の者です」
『越後の者か…』
白粉は佐助を見上げ、目を細めた