第24章 桜の咲く頃
その日を境に、湖の様子が変わった
ほぼ毎日のように熱を出し、ここ3日は食事も満足に喉を通らなくなっていた
女中も、家臣も湖の様子が気にかかる
「姫様…大丈夫だろうか…」
「万一にでも…」
「馬鹿な事を考えるな、湖様が…」
「見ているだけでも辛い」
「早く元気になっていただきたい」
口々に湖の回復を望む声が聞かれた
あの日から7日
庭の椿は赤い花をきれいに咲かせ、城下では桜が咲き始めた
湖の部屋に光りが差し込む
手桶に手ぬぐいを付け、きつく絞ったその主は湖の首筋や背中を丁寧に拭いていく
「湖様、具合はいかがですか?」
「ごめんね…少し寝ていれば良くなると思う…」
「食事は…食べられそうですか?」
ふるふると振られる頭
「そうですか。解りました。皆様には、私から説明いたしますので湖様は静かに寝ていて下さいませ」
「ありがとう…」
寝衣を元に戻すと、湖は静かに横になった
苦しそうに眉間に皺を寄せたままで
小さく息を吐くと、彼女は立ち上がって部屋を出て行く
部屋を出れば、そこには湖を心配する者がそこに居た
「秀吉様」
「任せきりですまないな、湖は…どんな様子だ?」
「食事はされませんが、寝ていれば問題無いからと言われて静かにされています…秀吉様、湖様は…何か悪いご病気ではないのですか…」
(そんなはず無い…家康が見過ごすわけがない。常に湖の近くで誰よりもその状態を確認し診察している…)
「いや…それはない…」
だが、秀吉の返答はさえない
歯切れの悪い返事が出てしまうのだ
すっかり春の風に代わり、風通しの為に少しだけ開かれた襖
そこから見えるのは、湖の細い肩だ
そして、安定した寝息
それを少しその場で聞き、秀吉は立ち去った