第24章 桜の咲く頃
(こいつ…ほんとに大人しくなったな…)
自分に大人しく抱えられている体温
それに小さく息をつく
はじめのうち湖は、多少の無理をしても動き回っていた
だが、一月(ひとつき)たった頃から無理に動こうとしなくなる
家康の「無理していたら長引くだけ」という言葉が聞いたのか、女中の手伝いも本当に調子のいい時にしかしなくなった
今日のように誰かに抱えられても暴れなくなった
政宗と外に出た湖
ゆっくりと歩く馬の上で風を受ける
まだ冷たいが、春らしい香りもするのだ
「草の匂いがする…土の匂いも」
「そうだな、城下じゃ童達が泥まみれで遊んでたぞ」
「ふふ、いいな。楽しそう」
政宗の胸に背を預け馬に乗る湖
伝わってくる体温はこどものように暖かく、少し熱があると解る
「…大丈夫か?湖」
「うん。平気、かえって風が気持ちよくて…うれしいよ」
目を細めて自分の方を振り返る湖に、政宗も笑みを返した
「そうか…じゃあ、良いところに連れて行ってやる」
「良いところ?」
連れてこられた其所は、桃色がちらほらと見える場所だった
「桜…、桜だ…」
「ここら辺だけだがな。今朝、秀吉と戻った際に見つけた。好きだと、言ってただろう」
「うん、大好き…政宗、ありがとう」
桜を見まわす湖を見る政宗
柔らかい笑みを浮かべ、うれしそうに桜を見ている湖の瞳が一瞬
(っ…)
「湖、ちょっとこっちを見ろ」
「ん?」
政宗の方に顔を向ければ、「どうかした?」と首を傾ける
「いや…悪い、気のせいだった」
「?」
(一瞬…目の色が…気のせいか?)
一瞬だけ、湖の瞳の色が違って見えた
まるで鈴の瞳のように左右異なって見えた気がしたのだ
「最近、鈴はどうしてる?」
「それが…時々起きてるのは解るんだけど、ほとんど寝てるの」
鈴には、もう二ヶ月は入れ替わってない
「鈴も桜が好きなの、ひらひら舞う花びらを追って回って…すごく可愛いんだ…」
「湖?」
「…ごめん、政宗。もう戻ろう」
ふぅと、息を吐く湖に政宗は眉をひそめた
「あぁ、解った」
何か解らないが、漠然と良くない感がするのであった