第5章 歌声 (裏:政宗、家康、信長)
結局、酒の席が終わっても鈴は懐から出ず
しかたなくそのまま御殿へ戻り、現在は家康の部屋である
が、襖を閉じため息を零したのと同時に鈴が飛びでてある壺めがけて走っていた
入っているのは、先ほど懐に入れていた薬の壺
またたびの実を乾燥させたものが入っているのだ
(…猫の千鳥足なんて、初めて見た)
はぁ…と、ため息をつくと
倒れて寝込んだ鈴を横目に家康は、壺に蓋をし奥の方へと移動させた
「これは…しばらくは片付けておくか…」
はぁ、ともう一度でた大きなため息が自分の耳にも届く
そして、三成の忠告を思い出した
『またたびで寝ていられる間は、起こさず。人に戻ることのないようにしてください』
なぜかと聞くと、しばらく後困った顔『家康様のためにも』と、苦笑して見せた
「なにが、俺のためなんだ」
だが…今、人の姿に戻られても面倒だ
鈴から戻った湖は、裸である
こんな時間に家臣に見られでもすれば、あらぬ誤解を招く
それを避けるためには、朝になったら猫のまま
鈴のままで三成にでも押しつけてしまえばいい
そう家康は思っていた
すでに日は落ち、部屋には灯明が灯され褥も用意されている
「…寝るか」
寝衣に着替え、しばらく躊躇したが仕方なく猫を抱え褥へ
布団の横に置いてやるとそのまま丸まって寝ていた
家康もまた寝ようと目を瞑るが、いつも違う気配に目は閉じたものの寝られずにいた
(…なにを意識してるんだ…鈴相手に馬鹿馬鹿しい…)
何度目かのため息のあと、鈴がもぞもぞ動いたのに気づきそちらに寝返った
すると、半開きの目の鈴の顔が目の前にあり驚く
鈴の目は、片方づつ色が違っていたがそれが光るとさらにその違いがわかる
なぉーーん
と寝ぼけたような鳴き声を上げ、家康の唇をぺろりと舐めた