第23章 大切な人に贈り物を (裏:政宗、家康、光秀、三成)
(さっきまでのしょげた顔は何処にいったんですか!?)
湖は、商人の方を向いて「早く」と急かすのだ
「お、お嬢さん、本当に行く気なのか…?」
「言いましたよねっ、専門医ですっ!なんで難産なのに放っておいて商売なんてしてるんですか!?どっちにいるんですか!」
「あ、あっちだ…」
結局三人と、後ろから一人は、商人が牛を置いている小屋まで走ることに
割と距離があり、宗久は息を切らし始める
「宗久さんっ!先行ってますっ休んできて下さい!まっすぐみたいですっ」
少し遠くから湖の声が聞える
解ったと示すように手を上げると、「申し訳ありませんっお先に失礼します」と後から来ていた武士に越される
(な、なんなんだ…あの女子…)
着いた先は馬小屋だ
商人は、ここを間借りして牛を二頭置いていた
一頭はメス、一頭はオス
メス牛は、大きいお腹で今にも産みそうなのに苦しそうに鳴いているだけだ
(これ…きっと逆子だ…)
湖は、商人に手伝って貰いメス牛だけを別の柵に入れてもらい
牛の後ろに立つそして、着物をたくし上げると後ろから手を突っ込んだ
「じょ、嬢ちゃんっ!?」
商人は驚いて目を丸めるばかりだ
湖は、差し入れた手で子牛の位置を確認し始める
(実習でしか…経験ないけど…)
牛の前足、頭の位置を手探りで確かめれば子牛は仰向けになっているようだ
「やっぱり…正常位じゃない…」
前に出ている前足を一度中に折り込むようにしまうと、子牛の頭をうつ伏せになるように捻る
(お願い…ちゃんとうつ伏せになって…っ)
ぐちゃぐちゃと、水音が聞えれば商人の顔が引きつる
やがて牛が一鳴きすれば、つるんと子牛が湖の手と一緒に出てくるのだ
重たい血液にまみれた子牛が上に乗ったが、湖は慎重にその身体を避けて商人の横に来る
「よかったです…早めで…」
というと、くったりと干し草の上に座り込んだ
一部始終確認していた武士は驚き、しかし、これは知らせねばと直ぐに城へと引き返し始めた
入れ替わりに馬小屋についた宗久は、目に入った光景に驚く