第22章 心から
結局、そのまま家康に送られ部屋に着くと丁度その場に三成が出くわした
(あ、三成くん)
湖がぺこりと頭を下げて挨拶すれば、後ろから舌打ちする音が聞え
(ん…?)
二人を見ると様子がおかしい
(なんか…へん??)
「…湖様、前に頼まれていた巻物をお持ちしました」
にこりと微笑む三成
いつもと同じだが、やはり何か違和感を感じる
いつもの三成なら
(家康に…言葉がけが無い?)
そういつもなら、家康にも微笑んで「家康様もご一緒でしたか?」等言うはずが、今日はそれが無い
でも、ただの勘違い
三成だって、たまにはそんな日があるかも知れないと湖はすぐにその違和感をはらった
『ありがとう』
声には出ないが、三成は口を読んでくれると解ったのでそう口を開く
「いえ。湖様の為なら…なんでも、仰って下さいね」
そう天使の笑みを見せるのだ
つられて湖もにこりと微笑むが、再び後ろからの舌打ちが聞え家康の方を振り返る
すると彼は、湖と目を合わせ
「じゃあね…」
と言い踵を返していくのだ
(家康…?)
湖は首を傾げるも、三成に呼ばれ部屋へと入った
その翌日、湖の声が出なくなって四日目のこと
朝、女中に起こされ小さく欠伸をした湖
「ふふ、湖様。相変わらず、朝が苦手ですね」
にこにこしながら湖の世話をする女中
一時、毒を短期間で二度も盛られ体調を崩した湖
二度目は攫われて怪我をし四日も目覚めなかっただけに、今は声を失っても普段通り元気な湖を見ていられるだけで嬉しい様子だ
羽織を着せると、その髪を梳く
「…綺麗な稲穂色です」
腰まで伸びた髪を櫛で梳き、サイドを纏めるといつもの髪紐をつけてくれる
「さぁ、湖様。目を開けて下さいね、今日は朝から宴だと光秀様が仰っていましたよ」
(うたげ…?)
寝ぼけて回らない思考で下女の話を聞く湖
「なんの宴かは存じませんが、政宗様が台所で朝から色々作っておいでです」
(あ、うん…政宗のご飯は美味しい…)
手際よく湖を着替えさせていく彼女は、最後に冷たく絞った手拭きを優しく顔に当てる
「っ…!?」