第22章 心から
「ああ…あの事か…まぁ、そうだな。ただ…三成は負けないと思うぞ」
「家康の鍛錬にかけている熱意は、三成とはケタ違いだ。負けないだろう」
秀吉と政宗が意見を言い始めると、光秀は腰を上げ
「どちらでも俺は構わないが…今回の本命は湖だ。お前達が熱くなりすぎてボロを出すなよ」
そう言い二人を置き先に出ていく
締められた部屋ではまだ秀吉と、政宗による戦術論が繰り広げられている
「さて…俺も準備をせねばな」
それから二日
湖は意識してか玄関には近づこうとしなかった
だが、城では普段通りにこやかに過ごしている
足も家康の薬のおかげで腫れは引いた
歩くのにも不都合はない
止められていた下女の仕事も再開し、時折庭に降りて雪だるまを作ったり普段と変わらない日常を送っていた
(前は、すぐに治ったんだけどな…まぁ、まだ3日…まえより1日長いだけ。今、思えば…すごく怖い思いしたんだよね。当然かも)
さも他人事のように、自分の声の事なんてさほど気にしてはいないようだ
声よりも
(…また、ああなる方が怖い…みんなに迷惑掛けないように、しばらく玄関には行かないようにしよう)
そう思いつつ、城内を歩いていれば稽古場から音がするのに気づいた
そっと稽古場を覗くと、黙々と竹刀を振るっている家康が目に入る
(家康…?)
湖は、戸口に回って静かに稽古場へ顔を出せば
「…湖」
すぐに、湖に気づいた家康が手を止めてこちらを向いた
「散歩…でもしてたの」
頷いた湖の反応を見ると、手拭きで汗を拭いながら戸口の方へと近づいてくる
稽古場の中は、火鉢など無いのに外よりずいぶん温かい
(家康、どのくらい稽古してたのかな…この熱気、家康だよね)
「…丁度、終わったところだから部屋まで送る」
(あ、悪い所に来ちゃったかな…)
いいよと、言うように両手を振る湖に家康は「いいから」と竹刀を片付けはじめる
(っ…なんか、家康…いつもと違う??)
なにが違うかなんて解らないが、首をかしげつつも好意に甘えることにした