第22章 心から
日常が戻ったのは、翌日からだ
翌日の朝、女中が湖を起こしに行けば、すでに褥は畳まれていた
慌てて探しに出れば、湖はすぐに見つかる
女中姿で床掃除をしているのだ
「湖様…っ」
『あ、おはようございます』
にっこりと笑い、口を動かせば伝わってはいるようで彼女は挨拶をしてくれる
が、、、
「おはようじゃありませんっ、病み上がりなのですから、じっとして…っあ。湖様、お待ち下さい」
止められようが仕事を続ける湖に、女中は諦めたように一緒に仕事を始める
掃除に、朝餉の簡単な準備、もくもく仕事に没頭していれば
掃除をしていた目線の先にあるのは見覚えのある黒い着物
「貴様は…何をしている」
上から振ってくる声は、呆れているとも怒っているとも言えない声だ
(あ、信長さまだ)
微笑んだまま上を見ようとすれば、急に頭を鷲づかみされ湖は驚いて持っていた雑巾を落とした
(っ…!?へ…??)
横にいた女中は、ささっとそれを拾うと彼に一礼して下がっていく
湖は、信長の顔を見ることも出来ず、ただこの状態に困惑する
(なに、なに、なに…っ!?)
「あんた…病人がなにやってんの…」
そんな様子に、特に指摘することもなく別の声が聞えてくる
家康だ
こちらは、明らかに呆れているのかため息が聞える
「湖…鷹に掴まれた兎のようだぞ」
くくっと、光秀の笑い声が聞えれば、ようやく頭に掛かっていた手が退く気配がする
「…」
そして見上げれば、何か言いたそうに威圧する目線が見えるのだ
(…えっと…昨日から信長さまには会ってない…私、なにかやったかな…??)
声が出ないとは不便なものだ
いつもなら「なんですか?」と聞けるのに、
そう思うも、言い訳すらできない今の状況に湖は横にいた家康に助けを求めるように視線を動かす
目が合った家康は、はぁーと息を漏らすだけで助けてくれそうにはない
(家康のばかー、ちょっとくらいフォローしてくれても良いのにっ)
「湖」
信長に言われ、湖は正座した状態で背筋を伸ばし信長を見ようとする
が、いつのまにか同じ目線に彼が降りてきていた