第22章 心から
獣医の職に就き、仕事に慣れ始めた頃
運ばれてくる動物たちの何匹かが虐待されて運ばれてくるのに気づきはじめる
特定の飼い主だった
彼らは、ペットが死なない程度に暴行を振い、事故にあった等といいながら病院に来ていた
同僚達も感づいていた
動物病院にしては珍しく夜間救急もある場所に勤めていた湖
だから当然のように事故や、捨てられて弱った動物の割合は自然と多くなる
特に夜間担当の日には、そんな子ばかりだった
治療して治す
感覚が少しずつおかしくなっていたのかも知れない
「どんなに怪我しても治してあげよう。私は、救ってあげられる」
そう思い込んでいた
ある日、常連の飼い主が連れてきた犬を見て愕然とした
血に染まった背中
そこは、以前に事故で怪我したと運ばれてきて湖が処置した場所
そろそろ皮膚がくっついて良い頃だと思っていた場所が、その傷跡を刃物で沿ったようにそのまま開いているのだ
飼い主は「ちょっと目を離したら、どこかで怪我した」と笑いながら言うのだ
血の気が引いた
湖を見上げるその犬は助けを求めているように見えた
「助けて」「怖いよ」
そう悲鳴を上げているように見えた
湖は、その飼い主に殴り掛かった
馬乗りになって罵倒し、警察を呼ばれそうになった
結局、医院長が飼い主を宥めて警察沙汰にはならなかった
おそらく、通報するなら動物虐待の件も通報すると言われたのだろう
犬は、湖が治療した
返したくは無かったが、飼い主に戻すしか無い
通報する証拠はあったが、そうなると湖の件も通報されるだろうから
今回は控えなさいと、釘を刺された
その子は数日入院した後、湖の非番のに飼い主が引き取りに来た
しばらくして、病院の前に小さな段ボールが置かれる
湖が夜間担当の日に【不良品】と書かれた段ボールに入っていたのは、あの子だった
何も食べさせてもらえていなかったのか
腹と背がくっつきそうな程やせ細った姿
泣き叫んだ
許せなくて
助けられなかった自分が、許せなくて
次の日、湖は声が出せなくなった
医院長も、病院スタッフもみんな優しく気遣ってくれた
救った命、それは正解だったのか?自分は、再び恐怖を与え、結果最悪の事態におとしめた
答えが出せない
手術道具を持てば手が震え…逃げた