第22章 心から
うろたえた…というのは、正直想像できない
家康はいつも冷静で慌てるそぶりが無いのだ
(あ、そういえば…さっき、走ってきてくれたのか息が上がってた…)
「狼狽えてないから…あんたは、余計な事を考えないで。自分のことを考えなよ」
湖が何かを考えている様子をみて、家康はすぐにそう言った
(…、家康らしい切り返し…)
クスッと笑えば
「…笑ったな」
と、信長が湖を見て口角を上げた
「この数日、貴様が寝ていたせいで城が静かだった。あの翌日から雪も降った」
(…寒いなぁとは、思っていたけど…もう根雪になるのかな…)
「…春が来るまで、目が覚めぬのでは…等、いう者も居た」
(春?…そんなに長く寝てられませんよ)
声が出れば、笑いながら言うところだ
そう思って二人を見れば、二人とも至って表情が変わっていない
それに湖は気づいた
心配をさせていたのだと
家康が足の当て布を変え終わると、湖は足に掛かっている夜着をよけ二人の正面に向かうように座った
「なに…」「なんだ?」
何事だと片眉あげる二人、似てないようで似たところがあると湖は思っている
「大丈夫」だと伝えたい
そんな時、どうすればいいだろうか…
湖の父親は、彼女をよく抱きしめその額にキスをした
さすがに、この時代に…キスだなんて、半分外人の父親の真似は出来ない
(でも…)
にっこりと笑って見せると膝立ちし、まずは信長に向かって手を広げ彼を包み込むように抱きしめた
「は・・ぁ・・!?」
隣から呆気にとられた声が聞えるが、信長はされるがまま黙っている
湖はその手を離すと、次は家康に…
だが、その両手を握られ頬を染めた家康に
「何のつもりか知らないけど、いいから。そうゆうの…」
と、拒否されてしまう
「…貴様の居た時代では、感謝などの意を示すときに抱きしめる風習があるのか?それとも、これは貴様の育った環境の問題か?」
信長に至っては、された好意について真面目な顔で聞いてくるのだ
陽がすっかり上がった部屋には、柔らかな光が差し込んだ
まるで「おはよう」と挨拶しているように
クスクスと、家康に両手を掴まれたまま笑っていれば