第22章 心から
シュ…
襖が開き、その方向を向けば
走ってきたのか少し息の上がった家康の姿が目に入った
その後ろに信長の姿もある
「湖…」
家康は側に来ると、片膝を畳に付き湖の額に手を当てる
湖は黙って家康を見ていた
やがて手を離すと、家康はその場に座る
信長が部屋に入ると、先ほど彼らを呼びにいった女中が一礼し襖を締めていった
「…声が出ないって聞いたけど」
家康の問いに頷く
「声が出なくて…あんたは泣いてるの」
止められない涙をそのままに、湖は軽く首を振った
「じゃあ…」
「…あの犬なら、殺した」
家康が言い淀んだ先を、信長がはっきりと言った
『はい』と、声はでないが湖の唇はそう動いた
信長なら、苦しませることなくおくってくれただろう
そう思い、信長に向かって頭を下げる
「…礼なのか、詫びなのか…解らんが、顔を上げろ」
顔を上げれば、信長の瞳が優しく湖を見ていた
涙はもう出ない
(身体が動くようになったら…あの子達のお墓を作ってあげよう…遺体は無いけど、気持ちだけでも…)
泣き止んだ湖を見て、家康は手桶で手を洗い湖の足の方へと向かった
「…あんた、どこか身体に違和感はない?…足と、話せない以外で…」
(違和感…この節々の痛みくらいかな…)
手首や肩やらを指で指せば、家康はそれをみてため息を零しながら、雪で濡れた当て布を外していく
「…それは、ずっと寝たままだったから…そのせい。あんた…気を失ってから四日、目を覚まさなかったから」
(…っ、四日!?)
思っていたより長く寝ていた事に湖は驚いた様子だった
「毒を打たれた事もあるけど…精神的に疲れたのが、原因じゃない?…まぁ、目覚めて良かったよ」
(毒…いつ…)
無意識に首後ろに手が行く
そして、そこにあった小さな傷の跡に思い出した
(あぁ…あの時だ…首になにか、刺されたんだ…あれが、きっと…)
「貴様は、二日経っても目を開けないに湖狼狽え付きっきりであったな…」
「っ、信長様」
「何を言おうが頑なに留まっておっただろう」
(家康が?)