第21章 一線を越えた男
短い間の後、家康は「手は尽くします」と言い二人を部屋から出した
こんな状態の湖に何人もついていても意味が無いからだ
だが、それだけではない
これから体の処置もするからだ
家康は、湖の胸についた傷に顔をしかめた
薄く切られた刀傷
手拭きでそこと、首筋の傷を水で拭き取ると処置をしていく
既に脱がせていた足袋、右足は打ち付けたのか内出血、左足には小指の付け根を切っている
血の跡を拭き取ると、切り口が紫色に腫れている
こんな状態になった場面に駆けつけられなかった
役割から見て信長の配分に、文句をつける箇所はない
万一に備えて自分が城で待機すること
大山の倉、帳簿の確認などは頭の切れる三成に
即脱却の行動が出来る者は、目星のつけた場所へ
でも、三成は今・・・秀吉と共に戻ってきた
(あいつは無断で職務を放棄しない。解毒薬等を見つけて駆けつけたんだ・・・)
湖の荒い息が籠もる部屋
的確に怪我の処置を済ませ、湖に寝衣を着せる家康
そこで、両手首の拘束跡に気づく
赤く擦った跡が残った手首
家康はどうしようも無い憤りを感じながら、その傷を丁寧に手ふきで拭いた
「では・・・私は、大山の店へ戻ります。宗久殿を残して来てしまいましたので・・・」
部屋を出た三成は、歯切れ悪くそう言うと秀吉に一礼して城を出た
(・・・湖様・・・)
頭の中は、泣きじゃくる湖の姿と、ぐったりとして動かなくなった先ほどの湖の姿
どちらも普段は目にしない姿だ
(・・・私は、無事しか祈れません・・・)
今は家康に任せるしか無い・・・そう頭は理解しているのに、気持ちが理解しない
制御出来きない、それに戸惑う三成
(先ほど、家康様が口移しで薬を飲ませられた際・・・私は、何をしようと思った?)
焦燥に駆られ、湖を引きはがそうとした
引き剥がして自分の胸の内にしまい込むつもりだった
(・・・家康様は、解毒剤を飲ませて下さっているだけなのに・・・)
「邪魔だから」と言われ、早々に追い出されたときにはホッとしたと同時に、小さな嫉妬が芽生える
「・・・いけませんね・・・私は、私が今できることをしましょう・・・」