第21章 一線を越えた男
慌ただしい足音が二人分、城の中を駆ける
それに気づくと家康は、直ぐにその方向へと早歩きで向かう
「家康様っ」
前から向かってきた家康に三成が声を掛けると、家康は秀吉の腕の中でぐったりしている湖をのぞき見る
額に手を当てずとも、その顔色と汗で高熱を出していることが解る
ぴくぴくと、手足も麻痺し、呼吸も荒い
「くそ・・・、またあの毒か・・・」
(あの薬草…手にはいるのにまだ時間が…っくそ、別の物で…)
すぐに用意してあった部屋へ湖を運び寝かせると二人に尋ねた
「毒が摂取されてからどのくらいですか」
「解らん。俺たちが到着する前には、もう首に打たれてた・・・」
(首に・・・)
湖の頭を軽く動かせば、確かに首筋に青く内出血し血玉があった
「っ・・・」
「家康様、これを・・・」
三成は、懐から信長から受け取った壺を取り出し、家康に渡す
渡された家康は、その蓋の口を塞ぐ和紙を剥がすと中を覗き見た
見覚えのある薬草が漬け込まれた液体
それは、少し前に家康が二人を解毒した際に使った物だ
一つは家康が、一つは宗久が持参した薬草
「…っ⁉これは…」
「毒は大山が独学で作った物。ですが、彼は解毒剤も用意していました。これを使えば・・・」
「っ、本当に解毒薬なのか・・・」
「・・・薬学に疎い私には解りかねます・・・ですが・・」
三成の肩に秀吉が手をかければ、彼は少し間をおきそう言った
家康は、その壺の中身を見て黙っていたが…
「解ってる・・・迷ってる時間がない・・・」
指を差し込み、其処に収められている液体を舐めた
「ばか・・家康、お前・・・っ」
秀吉が止めようとしたが、家康は再度それを口に含んだ
「・・・毒になる物は・・・おそらく無い・・・この植物は、宗久さんからもわけて貰った薬草・・・」
一人で確認するかのように、ぶつぶつと話した後
家康は、壺の液体を湖の口元に匙で掬い運んだ
だが、その身体は荒い息を繰り返すだけで反応が無い
匙を自分の口元に運んでくるとそれを含んだ家康は、側に置いてあった水も少し口に含む
そしてそれを、口移しで慎重に湖に飲ませていく
何度か繰り返し、彼女を寝かせると黙って側で見守っていた秀吉が家康に問う
「・・・湖は・・・大丈夫なのか・・・」