第21章 一線を越えた男
(何度も命を狙われてここまで来たが、零れた火の粉にこれほどまで乱されるとは・・・っ)
湖の取り乱した様子に一瞬ではあるが、手元に彼女を置いておくべきかどうか…そんな考えが過ぎった
(今更ながら手放す気はない…が、あの女を巻き添えにするなど、さらにありえない)
暗い洞窟を進めば、分かれ道で地面に置かれた松明が眼に入る
灯を拾えば、近くに血を擦った跡が見える
信長はそれに目を細めながら、灯を拾うと更に奧へと進む
(っ・・・一体、何なのだ)
感じた事の感情に振り回される
退屈しない存在
だか、いつからか湖のやることなすことに心が乱されるようになってきた
そう感じていた矢先の出来事
(だが・・・今は・・・)
いつの間にか日が沈み、月明かりが差し込むようになった最奥には三人の人影がある
「御館様」
光秀がいち早く灯に気づき信長に声を掛けた
信長は、政宗に拘束され跪いている男に向かっていく
「残念・・・あの姫に皆さんがこんなに執着されてるなんて・・・無駄話などせずに、直ぐに食わせてしまえば良かった」
政宗に殴られ、頬を赤く腫らし口端から血筋を流しながら男は苦しそうに笑った
「まったく・・・私は商人なんだ・・・武士の扱いで処罰を受けたくはないのに・・・伊達様は手加減を知らない」
政宗の鋭い眼光が彼に向けられる
大山を視界に入れれば「…怖い物ですねぇ」と薄ら笑いを浮かべているのだ
「貴様は、手を出すべきではない物に手を出した・・かつ、それを傷つけた」
「えー・・・あぁ・・・はいはい、お姫様のことですねぇ・・・それならご心配なく。本当は食い散らかされる様を見たかったのですが、念のため万一助かっても必ず死ぬように手を打っております」
「お前・・・っ、湖に何をしたっ」
政宗が、大山の胸ぐらを掴みその首元を締め上げれば、彼は狂った笑いを見せる
「アハハッ・・・第六天魔ならず、伊達に明智、豊臣の記憶にまで留まれるようだなぁ・・・愉快っ、愉快ですよっ・・・」
どんっと、彼を後ろに突き飛ばすも、身体を打ち付けながらまだ大山は笑っていた
スラリと、月明かりに照らされ刀が光る
「政宗」
それを横から光秀が押さえた
「あらかじめ用意した毒でも使ったか」